アイ・ミス・ユー
「さらに言うなら、販売部に持ってこさせるのも間違いです。準備したものを取りに行くのが筋ってものです」
「結、こいつお前の同僚?」
金子に対して不快感をあらわにした健也が、イラついたように私に尋ねてくる。
即座に金子が答える。
「金子基之です。綾川さんの同期です」
「同期ねぇ」
「違う、上司。4月から新しく来た主任なの」
慌てて訂正すると、金子は涼しい顔でにっこりと笑った。
「ということで、販売部には俺から連絡しておきます。食器はご自分で取りに行って下さい」
「おい、誰に向かって口聞いてんだ」
「知ってますよ、住宅インテリア部の小野寺部長」
ポン、と軽快な音がしてエレベーターの扉か開いた。
私たちの降りる階だ。
重苦しい空気が一気に解き放たれたような気がした。
「綾川さんは今は俺の部下です。命令するのはやめて下さい」
健也を残してエレベーターを降りて、金子が振り返る。
眉を寄せて不機嫌そうな健也が映った。
その彼に、金子は特に臆することなく淡々と言い放った。
「では、我々すごーく、い・そ・が・し・い・ので、これで失礼します」
暇だろ、と言われたのが癪に障ったのか分からない。
だけど金子の態度はやけに堂々としていて、あの健也が言い返すのも忘れるほど唖然としていた。
そのままエレベーターの扉は静かに閉まってしまった。