アイ・ミス・ユー
降りた廊下で、今野くんがボソッとつぶやく。
「主任…………すげぇ」
「そうかな?」
「あんなん言えないですよ!自分より上の人ですよ?あれで飛ばされたらどうするんですか!」
「え〜、このやりとりでブチ切れるようなみみっちい人だったら逆にガッカリする」
のほほんとした口調で笑う金子に、私はなんと言えばいいのか分からずにいた。
ありがとうってお礼を言うべき?
見下されたような言い方をされたから?
元彼に命令されてたから?
迷っているうちに、今野くんが気まずそうに肩をすくめて私の表情をうかがってきた。
「綾川さん……メンタル大丈夫ですか?だって……その、小野寺部長って……ほら。元彼じゃないですか」
「……うん、平気。ごめんね、余計な心配かけさせてしまって」
今野くんに謝ってから金子をチラリと見ると、彼はすっとぼけたように首をかしげた。
「うそっ、あの人って綾川さんの元彼なの?知らなかった〜、そうなんだ〜。そうとは知らずにごめんね〜」
この反応は……間違いなく、確信犯だな。
金子の食えない一面を知り、見た目だけはザ・草食系男子の彼は案外中身は深いかも、と思い始めた出来事だった。
「で、主任。合コンどうします?」
「いいよ、どうせまぁまぁの外見だし、そこそこしかモテないだろうからさ〜」
「ちょっとちょっと〜、根に持たないで下さいよぉ」
話のネタが元に戻った男ふたりを眺めて、やっぱりお礼を言えばよかったと少しだけ後悔した。
だって私はさっき健也と話した時、心の中で思っていたのだ。
悔しい、と。
私を守ってくれたのは、どうしてなのだろう?
そんなことを考えながら、事務所へと戻った。