アイ・ミス・ユー


別に害があるわけじゃないし、彼女に話したところで金子に会ったこともないのだから、まぁ話してもいいか。


私はしつこく尋ねてきそうな翡翠ちゃんの空気を察して、観念して答えることにした。


「今朝の辞令、見た?来週販促部に異動してくる新しい主任が、私たちの同期なのよ。たぶん、私たち同期の中で一番初めに昇進するの」

「あー、名前だけは確認しました。確か、金子主任ですよね?」


改めて翡翠ちゃんから「金子主任」という言葉を聞かされると、本当に彼が主任になるんだという実感が沸いてくる。


ハッキリ言って、私の数少ないおぼろげな金子基之という男の印象から考えると、主任になるには無理があるような気がしたのだ。


なんというか……、平たく言えば“普通”なのだ。
特に抜きん出て目立つわけでもカリスマ性を持っているわけでもなく、かと言って引っ込み思案というわけでもなく。
全体的に何もかもが“普通の男”。


一般的には20代のうちに主任になれるなんて、けっこうなスピード出世だと思うのだけれど。


「私らも金子と一緒に働いたことがあるわけじゃないから、いまいち仕事ぶりは分からないんだけど。でも早々に主任になったってことは仕事が出来る奴なのかなぁって話してたんだ」


かなり話の内容は変えてしまったけれど、その場しのぎにしてはちょうどいい嘘を言えた。
隣の樹理も「やるじゃん、結子」と言いたげな顔をしていた。

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