アイ・ミス・ユー


午後11時過ぎ。
事務所に残っているのは、私と金子だけ。


カタカタとパソコンのキーボードを叩く音だけが聞こえる静かな事務所で、無言で仕事を続けていた。


さっきまで数人、他の部門の人たちが残っていたんだけど。
ひと段落したから、とポツポツ帰り出して、結局残ったのは私たちだけになってしまった。


昼間、デスクワークをおろそかにしたツケが回ってきて、金子は山のような書類に囲まれながら眉間にシワを寄せてパソコンの画面とにらめっこしている。


そんな彼に酒田部長に頼まれた定例会議の資料作りを投げることが出来ず、とりあえず何も言わずに私が作成してしまった。
中身に自信は無いけれど、前回までのものを見返しながらそれっぽく作ったつもりだ。


出来上がったものをプリントアウトして、ホチキスどめする。


事務所の隅っこにある電気ポットで熱いコーヒーを入れて、それを金子のデスクへと置いた。


「主任、コーヒーどうぞ」

「あー、ごめん。ありがとう」


疲れ切った顔で、彼はコーヒーを受け取ってしなびた笑いを返してきた。
ぐっと背伸びして回転イスの上で左右に揺れたあと、大きなため息をついた。


「疲れた〜、肩こりヤバいよ。……って、あれ?もうみんな帰ったの?」

「1時間ほど前にみなさん帰りましたよ」

「もうこんな時間か、帰らないとね」


事務所の時計で時間を確認して、金子が帰り支度を始め出した。
そんな彼に、私は今さっき出来上がった資料を渡した。


「あの、これ。部長が主任に作ってほしいって言ってた定例会議の資料です。主任、忙しそうだったので勝手に作っちゃいました」

「え!うそ!?」


彼は目を丸くして資料を手に取り、パラパラとめくって中身を確認する。


「うわーごめん。本当にごめん。これって本来俺の仕事だよね。切羽詰った顔してたから気遣わせちゃったね」

「いえ、気にしないでください」

「いやいや、気にするよ」

「まぁ、確かに切羽詰った顔はしてましたけど……」

「だよね、こんな顔してたでしょ?」

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