アイ・ミス・ユー


「それにしても本店の忙しさって本当にケタ違いだね。この際承認作業なんてすっ飛ばしてやりたいようにやらせてみたら、案外うまくいくかもしれないよね」


さっきも気にしていた肩こりが酷いのか、金子はしきりに首を左右に振ったり腕を回す。
お疲れモードの彼に、私は「そういえば」と話を切り出した。


「今日の午後だけで、カーテンの売上伸びたらしいですよ」

「え!ほんと!?」

「あれから3組のお客様がオーダーしていったそうです」

「おー、良かった。明日からの土日が楽しみだな。クビも免れそうだ」


彼特有の穏やかな笑顔を向けられ、私は曖昧な笑みを返しておいた。


「あの時、売れるって言った自信はどこから来たんですか?」

「んー、カンってところかな」


嘘でしょ、と思わず声に出しそうになってどうにか止める。


カンだけであんなに自信満々に社員を動かして大規模な変更をしたというのか。強者ってこういう人のことを言うんじゃなかろうか。


「最初からカーテンには力入れてない感じだったし、見せ方もマンネリ化してそうだったから。何回か足を運んだお客様が新鮮な気持ちで見てくれる方がいいに決まってるもの。だから、商品の価格帯を真逆に配置してみたの」


味のしみた半分の煮玉子をポイッと一口で食べ切った彼に、ポロリと本音を漏らす。


「あそこまで変えたら、確かにちょっと印象は変わりますね」


店舗の印象も、金子の印象も。
言わないけど。


「結果的に正解で安心した。でも残業はなるべく減らしたいから、明日からは心を入れ替えてデスクワークに励むよ」

「切実にお願いします。……て言ってもどうせ現場に出ちゃうんでしょうけど」

「でも綾川さんが連れ戻しに来てくれるんでしょ?」


チラッと彼を見やると、にんまり楽しげに歯を見せて笑っていた。


この人は、見た目と中身にだいぶ差があるかもしれない。


穏やかそうだけど、実はけっこう喜怒哀楽がハッキリしてるとか。
優しそうだけど、言いたいことはズバッと言っちゃうとか。
のほほんとしているけど、実は頭の中ではフルスロットルで脳みそが働いてるとか。


草食系に見えて、本当はそうじゃないのかも。


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