アイ・ミス・ユー
ラーメン屋をあとにした私と金子は、地下鉄の駅を目指して歩きながらお金の押し合いへし合いをしていた。
「ラーメンくらい奢らせてよ。付き合わせたんだから。一応上司だし。一応男だし」
「なにが上司だ、なにが男だっ。私たちはただの同期。自分の食事代くらい自分で払えるし。早くお金しまってよ」
「かっこつけさせてよ、ね?」
「大してかっこよくないんだから無駄なことしないで」
「あ。いま本音言っただろ」
ガーン、とショックを隠しきれない金子がうなだれて私を恨めしそうに見つめてくる。
一瞬しまった、と思ったけど、聞こえないふりをした。
うーん、なんかちょっとこういう掛け合いが面白く感じてきた。
どうした、私。
地下鉄の終電がホームにやって来て、金曜日の夜ともなれば酔っ払い客が押し寄せるように地下鉄に乗り込んだ。
波に乗って私と金子も乗り込む。
周りの人たちの酒くささにちょっとダレているうちに、地下鉄が走り出した。
マンションが向かいなのだから、降りる駅も同じだし向かう方向も同じなわけで。
横目で金子を確認すると、まだ少しふてくされたような顔で窓の外の真っ暗な地下道を眺めていた。
━━━━━きっと、言うなら今だ。
「ありがとう」
地下鉄の走行音でかき消されてしまうんじゃないかと思うほどの小声で伝えたお礼の言葉。
だけど金子はしっかりとキャッチしていたらしい。
僅かに驚いた瞳を私に向けていた。