アイ・ミス・ユー
「まるだに来たの、大学時代以来だな」
目の前にドンと置かれている七輪に視線を向けて、金子が目を細める。
そういえば大学は市内って言ってたっけ。
就職してからは岩見沢店勤務だったわけだし、久しぶりなのはうなずける。
「私は樹理とたまに来てるかな。でもほら、ジンギスカンって基本的に匂いが服につくから。帰りの地下鉄はヒヤヒヤするのよ」
「女の子は匂いとか気にするだろうね。俺は石けんの香りも好きだけど、ジンギスカンの香りをプンプンさせてる女の子も悪くないと思うよ」
「なんかその発言、変態ぽい」
胡散臭そうに彼を横目でチラ見すると、金子はおかしそうに微笑んでいた。
最初に頼んだサッポロビール4杯がカウンター席に届き、私たちはそれぞれ左右をくるくる向きながら乾杯。
グビッとひとくちビールを流し込んだら、喉が一気に潤って疲れが溶けていくような気がした。
「美味しいわ〜、仕事終わりの一杯」
「もうすぐ夏だし、けっこう暑くなってきたから、ビアガーデンとか最高だろうな」
「ビアガーデン行きたくなるからやめて」
思わず口を尖らせると、金子が口角を上げてほんの少し試すような口調で尋ねてきた。
「今度一緒に行く?」
「………………行かない」
「販促部のみんなで。それでも行かないの?」
「それなら行く」
辛辣ともとれる私の返答は、何故か彼の笑いのツボを押さえているらしい。
信用無いんだなぁ、と笑っていた。