アイ・ミス・ユー
席を移動したら、それにいち早く気づいた今野くんがここぞとばかりに私に絡んできた。
「綾川さん来たっ。俺のヘタレ話聞いてくれますかぁぁぁ」
ビール数杯で顔を真っ赤にした今野くんが、ついでに目まで真っ赤にしてうなだれている。
何が起きたのかと奥にいる樹理を見たら、彼女は半ば呆れたようにため息ついていた。
「もうあの田上翡翠の話は終わったのよ。次は今野の恋愛相談」
「へぇ、今野くん好きな子いるんだ」
「年頃ですからね、俺だっていますよ。大学時代の同級生なんですけどね、元からいいと思ってたし、彼氏いないって言うし。でも俺、こう見えて恋愛は押せないんですよねー」
何事にもポジティブに向き合うタイプかと思ったらそうではないらしい。
意外な気がして、それでは彼の良さが生かせないと思ってついつい「何言ってるのよ!」と熱が入る。
「もったいないよ。今野くんは明るいのが取り柄でしょ?それを全面に出さないでどうするの。押せ押せ!女は押しに弱いんだから!」
「そんなの人それぞれっすよ。ねぇ、金子主任は男としてどう思います!?」
「お、俺?」
急に話を振られた金子は、口に運ぼうとしていたマトン肉をいったんお皿に置いて、しばし考え込む。
そしてポツリとつぶやいた。
「俺、頑張って押して振られた過去あるからなぁ。女は押しに弱いだなんてどの口が言ってるんだか」
ギクッと心が軋んだのは私である。
確かに。
言ってることとやってることが違う。
でもあの頃は、健也がいたしなぁ。
「ほら見てくださいよ!綾川さん、適当なこと言うのはやめて下さいよ〜」
「あはは、ご、ごめん」
ふくれっ面の今野くんに、丁重に謝っておいた。