アイ・ミス・ユー
ふと横を見ると、一応可愛い後輩を盛り立てようとしているのか金子が一生懸命タンバリンを鳴らしている。
大真面目な顔をしてタンバリンを叩いている姿は、彼の性格をそのまま投影しているような気がした。
何事にも手を抜かないというか。
部下への感謝の声がけは必ずと言っていいほど毎日やっているのは聞いているし、店舗へ行った時も販売部の社員に労いの言葉をかけているのは知っている。
5年前にあんなことがなければ、私は金子のことを尊敬していたかもしれない。
仕事が好きなんだろうというのは認める。
元彼の健也が仕事や人間関係で耳にタコが出来るほど愚痴っていたのとは、まるで正反対だ。
2人を比べそうになっている自分に気がついて、慌てて打ち消した。
「綾川さん、ほら、中島みゆきですよ」
歌い終えてうっすら汗をかいた爽快感たっぷりの今野くんが、満面の笑顔で私にマイクを渡してくる。
中島みゆきしか歌わせてもらえないのはどうしてなんだろう。
もう突っ込む気にもなれない。
勝手に予約された「地上の星」のイントロが流れてきて、仕方が無いので覚悟を決めた。
樹理は先ほどいきものがかりを歌わされたばかりなので、小休止モードである。
歌い始めたら、また金子が懸命にタンバリンを鳴らし始めた。
耐え切れずに笑ってしまい、彼と目が合ったけれどすぐに逸らした。
「さすが綾川さん!うまいっすね!」
などとヨイショしてくる今野くんの言葉は一切無視してやった。