アイ・ミス・ユー


「オンチだって言えばよかったじゃない、最初から」

「俺は言ってたよ、苦手だって」

「苦手じゃなくてオンチって言えばよかったのよ」

「中学の合唱祭でさ、指揮の子に言われたんだ……。もっちゃんはオンチだから口パクでお願いね、って。俺はそれからずっとトラウマだよ」


そんな会話をしながら、私と金子は地下鉄北18条駅を降りてマンションに向かって歩いていた。


そうなのだ。
この金子基之という男、信じられないほどのオンチだったのだ。


森山直太朗の「さくら」みたいな高度な曲を歌いこなせるわけなど絶対に無いほどの、極度のオンチ。


申し訳ないけれど、その場にいた金子以外の全員が膝から崩れるほど笑い転げてしまった。


金子の方は怒るかと思いきや、シュンと落ち込んでいたりして。
その姿がまた普段とのギャップが激しくて面白かった。


「なんでもソツなくこなすタイプだと思ったら、まさかあんなにオンチだとはね〜」

「言っておくけど、俺は弱点だらけだよ」

「へぇ、そうなの?」


意外な気がしてふと隣を歩く彼を見上げると、コクリとうなずくのが見えた。

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