女神は蜘蛛の巣で踊る
「知らないわ。タバコじゃない?」
弘美はニヤニヤして企んだように言った。
「どっかの美女にお持ち帰りされてないでしょうね?有り得るわよ~、あんたの旦那様、かなり男っぽいし、細マッチョが好きな女ならフラフラ~っとくるかも」
苦笑して、彼女にデコピンをお見舞いする。そんなことになったら私からの仕返しが怖いだろうから、彼は一目散に逃げるはずだ(多分、おそらく、予想するに)。
「バカなこと言ってないで。大体このパーティーのどこに、若くて美人がいるのよ?年齢高いわよ、ここ」
私の返事に弘美はケラケラと笑う。やっぱりそれなりには酔っているらしい。
「確かにね!私たちと、あの歌手くらいよね~。あははは」
そう、それよ。私は真面目な顔になって弘美の腕をポンポンと叩く。それから彼女を壁際に引っ張っていって、声を潜めた。
「ねえ、あの歌手は誰かの知り合いで出演したの?それともホテル付の歌手なわけ?」
ん?と弘美は怪訝そうな顔をする。だけど、すぐに考えるのが面倒臭くなったらしく、どうでも良さそうに話した。
「ええと・・・ウチから出演依頼をしたはずよ。編集長がシャンソンが好きとか、何かそんなので」
「あんた酔っ払いね」
「うるさいわね、まりのくせに」
どういうことよ、その言い分は。私は飲んだくれじゃないっつーの。憮然としたけれど、とにかくと歌手を振り返る。彼らをあの蜘蛛が狙っているなら─────────