女神は蜘蛛の巣で踊る
今日の桑谷さんは、ホテルでのパーティーとあっていつも彼が好むサバイバルないでたち(迷彩カーゴに黒Tシャツ、ブーツ、の3セット)とは違い、ちゃんとしたスーツ姿だった。
少しだけのびている黒髪、ゴツゴツした濃い顔立ち。黒目が光る一重、それから黙って立っているとそれだけで人を威圧する存在感と高い身長、細いのにがっしりとした体つき。さてさて、弘美はどんな印象を抱くだろうか?
女友達で毒舌団体代表(になれるくらいの口の悪さ)の弘美は、じっくりと彼を眺めてから、失礼、と謝った。
「ごめんなさい、不躾な視線で。でも桑谷さんは、想像したとおりだったわ!まりを大人しくさせることが出来る男性ってこんな感じかな、って私が描いてたような」
多分に笑いを含んだ声だった。それに気がついて、夫は鼻の頭を指でかく。
「・・・大人しく、させることなんて出来ないんですけどね」
「あら、あなたでも無理ですか?結構簡単なはずですけど。まりを押し倒せばいいんですよ」
「それをして、鼻の骨を折りかけたことがあります」
「あらまあ」
「その上で股間を踏み潰されそうにもなりました」
「だってまりですもんね!あははは」
あんた達、どこで何の話しをしてるのよ?私は眉間に皺を寄せて二人をにらみつける。押し倒せって何だ、押し倒せって。それに、鼻の骨を折りかけてなんかなかったでしょ、ちゃんと鼻を狙いから外したんだから!あそこだって踏み潰してないし。・・・企んだけど。