女神は蜘蛛の巣で踊る


 折角のお洒落を台無しにするあけっぴろげな笑い方をして、弘美はキラキラした瞳で私を見る。いいじゃない、彼!その目にはそんな文字が見えるようだった。

 ・・・弘美には受けがいいのか、うん。まあ、そうだろうと思ったけど。

「退屈だと思うけど、ご飯だけはいいはずだから十分に食べていってね!それからほら、出版業界の偉いさんは何人か来てるから、もしよかったら名刺交換に励んで頂戴」

 弘美がそう言って会場を指し示す。私は手をヒラヒラと振った。

「出版業界とは全然関係ない生活をしてるんだから、それはいいわよ。有難く料理を食べてるわ。挨拶で忙しいんじゃないの、あんた?」

「そうそう、ここで次の仕事をとらないとね」

 またあはははと口を開けて笑っておいて、弘美が夫へ挨拶する。

「会えて嬉しかったです、桑谷さん。本当に大変でしょうけど、まりを宜しく」

「こちらこそ、よんでいただいてありがとうございます。折角なので楽しんで帰りますよ」

 大人な挨拶だった。私はどちらにも感心して目を丸くする。

 毒舌でヘビースモーカーな、ちょっとやそっとの喧嘩では負けない荒れた女が素である高木弘美と、黙っていればバーの用心棒のようで口を開けば軽い男、素顔はまるで鎖付きの野獣のような男である桑谷彰人は、一体どこに隠れた?そう思って。

 ・・・皆、ネコ被るのうまいわねえ!

 弘美が人ごみをかきわけて姿を消してしまうと、彼が通りすがりのウェイターからシャンパンのグラスを取りながら言った。


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