女神は蜘蛛の巣で踊る
それが若干心配な私だけど、とにかく、彼の言う通りに蜘蛛は現れたのだ。
「・・・と、いうことは」
蜘蛛野郎が呟いた。
「あんたが一人なわけが、ない」
その通り。
私の後ろ3メートルほどの暗闇の中から足音が聞こえて近づいてきた。それは、滝本さんの会社の調査員、飯田さん。そして─────────
「どの殺虫剤がいいか、お前に選ばせてやる」
そんなことを言いながら、蜘蛛男の後ろからは、夫、桑谷彰人が姿を見せた。
ヤツは振り返り、それから無表情で急に現れた男性二人を目で確認する。それから、体の力を抜いて静かに構えた。
・・・おお、すぐに戦闘態勢だわ。
飯田さんが私の前に出て、言った。
「さっき危なかったですね。だけどあなたが避けたのをみて驚きました。遠くにいすぎてすぐに来れず、申し訳ない」
「いえいえ、バカを挑発したのは私ですから」
大丈夫です、と言葉を返して無人のベビーカーを回収していると、飯田さんと蜘蛛男を挟み撃ちしている夫の声が飛んできた。
「また挑発したのか?全く、どうして君はいつもそうなんだ!」
あら、聞こえてた?
私は見付からないように舌を出してから、彼に向き直る。
「知ってるでしょ、私の性格は。ところで、雅坊を見に誰をいかせたの?湯浅さん?」