女神は蜘蛛の巣で踊る
滝本さんはうっすらと微笑んだままで少しだけ首を傾げる。
「彰人には考えがあるようだったので、従いました。お役に立てて何よりです。あなたも無事だったんですね」
「彼と飯田さんが蜘蛛野郎・・・失礼、あの何でも屋を追い詰めたところで交代してきたんです。二人がいるし、危ないことはないと思いますけど・・・」
そこまで言うと、滝本さんはするりと立ち上がる。読んでいたらしい新聞をきっちりと畳んでテーブルに置き、ふむ、と呟いた。
「飯田や彰人が危険なことはないと思いますが・・・蜘蛛はある意味危険かもしれませんね。何故か今回は、彰人がえらく殺気立ってましたから。まあ殺すようなことはないと思いますけど────────私もこれから向かうとします」
こ、殺す??・・・さらりと物騒なことを言う。私は少しばかり引きつった口元を手で隠して滝本さんに言った。
「ええと、すみません。私が頭を突っ込んでしまったばかりに皆さんを面倒くさいことに巻き込んでしまって」
挙句の果てに赤ん坊の子守までさせるところだった。
さすがに真面目な声と顔でそう謝ると、滝本さんはうっすらと微笑んだままの顔でしれっと言った。
「大丈夫ですよ、貰うものはちゃんとヤツから貰いますから」
「・・・・はあ」
「知人価格で」
「・・・つまり、3倍料金?」
滝本さんがにやり、と笑った。それはいつも私に見せる対外用の柔和な笑みではなく、大層人間くさい企んだ笑顔だった。
「いえ、料金は通常です。ただ、彰人は私に大きな貸しが出来る」
・・・さよですか。私はどうすればいいのか悩んだ挙句、曖昧に微笑むだけにした。