女神は蜘蛛の巣で踊る
とにかく何とか夜泣きを収め、ささっと入浴して私も眠りについた。
いい匂いのする息子の肌に顔を近づけて、私はゆっくりと幸せな夢に落ちていく。
この子を守れた、それが判っていたからだった。
朝。
私が起きると、台所で立ったまま、夫がコーヒーを飲んでいた。
台所に面した大きなガラス戸から朝の光が差し込んで、キラキラと部屋の中を明るくしている。空気中の埃と沸かしたお湯の蒸気の中で、彼は外を眺めながらカップを傾けていた。
静かにドアを開けたので、私には気がつかなかったらしい。彼の大きな体。それから短い黒髪。シャワーを浴びたのだろうか、頭にはまたタオルがかかっている。私はしばらくぼーっとその、朝日の中で佇む夫の後ろ姿を見ていたけれども、ようやく気が済んで、ドアを片手でノックした。
「おはよう」
彼が振り向いた。
・・・う。
私は驚いて、つい目を見開いた。
「おはよう、雅は大丈夫だったらしいな」
そういって微笑む夫の顔は、いろんなところが青あざになり、口の端などは切れてしまっているようだった。
元々岩のようなゴツゴツとした、よく言えば男性らしい濃い顔をしているのに、その怪我だらけの顔では更に凄みが増している。もうどう好意的にいってもヤクザのようだ。
「・・・ええと・・・何事?だ、大丈夫なの、その酷い顔?」
にっと彼が笑う。痛そうではあったけど、機嫌はいいようだ。つまり、何であれ彼の納得がいくような結果を迎えたのだろう、それが判った。