偽りの姫は安らかな眠りを所望する
* それは突然の……
* それは突然の……
木々の青葉が鬱蒼と茂る森の中までは、初夏の日射しも足下までは届かない。
地べたにしゃがみ込んだ自分の身体がすっぽりと隠れそうなほど育った下草をかき分けながら、ティアは熱心に捜し物をしていた。
「たしか、毎年この辺りに生えてくるはずなんだけど」
去年まで一緒に探してくれていた祖母は、もういない。
いったん立ち上がり、曲げたままで疲れ始めた腰を伸ばしていると、ガサガサと草を踏む音が近づいてきた。
ティアは一瞬ぎくりと身を硬くするが、すぐに続いて聞こえてきた森中に響き渡りそうなほどの大声に肩の力を抜く。
「ああ、いたいた! ようやく見つけたよ」
熊かと見間違えそうな大男が髭面で笑みを作り手を振ると、驚いた小鳥たちが抗議の鳴き声を上げて飛び立った。
「ヘンリーさん、どうしたんですか?」
「ラルド様がお探しなんだ。すぐに戻っておくれよ」
息を整えながらしゃべる庭師のヘンリーは、日焼けした額に大汗をかいている。よほど急ぎの用事なのだろうか。
「ラルド様が!? いつ、こっちへ戻っていらしたんですか?」
「シーラが言うには、なんでも昨日の夜遅くだったそうだよ。とにかく急いで。儂は少し休んでいくから」
ドサッと草の上に座り込んでしまい、早く行けと手のひらでティアを追いやる。
「わ、わかりました。知らせてくれてありがとうございます」
ティアは脇に置いたままだった籠を掴むと、森の出口に向かって走り出した。
自生する植物を守るため、あえて人の手を入れていない獣道同然の細い道を、行く手を遮る草を避けながら進む。
明るい場所へ出たときには、手の甲や頬に避けきれずにかすめていった草による小傷が幾つもつけられていた。
いったん小屋に戻って着替えないといけない。
ティアの主人であるヘルゼント伯爵の嫡男に目通りするのだ。こんな薄汚れたままというわけにはいかない。
住まいである森の脇に立つ小屋を目指した。
木々の青葉が鬱蒼と茂る森の中までは、初夏の日射しも足下までは届かない。
地べたにしゃがみ込んだ自分の身体がすっぽりと隠れそうなほど育った下草をかき分けながら、ティアは熱心に捜し物をしていた。
「たしか、毎年この辺りに生えてくるはずなんだけど」
去年まで一緒に探してくれていた祖母は、もういない。
いったん立ち上がり、曲げたままで疲れ始めた腰を伸ばしていると、ガサガサと草を踏む音が近づいてきた。
ティアは一瞬ぎくりと身を硬くするが、すぐに続いて聞こえてきた森中に響き渡りそうなほどの大声に肩の力を抜く。
「ああ、いたいた! ようやく見つけたよ」
熊かと見間違えそうな大男が髭面で笑みを作り手を振ると、驚いた小鳥たちが抗議の鳴き声を上げて飛び立った。
「ヘンリーさん、どうしたんですか?」
「ラルド様がお探しなんだ。すぐに戻っておくれよ」
息を整えながらしゃべる庭師のヘンリーは、日焼けした額に大汗をかいている。よほど急ぎの用事なのだろうか。
「ラルド様が!? いつ、こっちへ戻っていらしたんですか?」
「シーラが言うには、なんでも昨日の夜遅くだったそうだよ。とにかく急いで。儂は少し休んでいくから」
ドサッと草の上に座り込んでしまい、早く行けと手のひらでティアを追いやる。
「わ、わかりました。知らせてくれてありがとうございます」
ティアは脇に置いたままだった籠を掴むと、森の出口に向かって走り出した。
自生する植物を守るため、あえて人の手を入れていない獣道同然の細い道を、行く手を遮る草を避けながら進む。
明るい場所へ出たときには、手の甲や頬に避けきれずにかすめていった草による小傷が幾つもつけられていた。
いったん小屋に戻って着替えないといけない。
ティアの主人であるヘルゼント伯爵の嫡男に目通りするのだ。こんな薄汚れたままというわけにはいかない。
住まいである森の脇に立つ小屋を目指した。
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