偽りの姫は安らかな眠りを所望する
「どう? こうすれば可愛いけど、仕事の邪魔にもならないでしょう」

「……でも、こんなの自分じゃ無理です」

ティアは瞬きも忘れて手元に見入っていたが、どこをどうしたらこんな複雑かつキレイに結えるのか、てんで見当もつかない。意気消沈するティアに、コニーはころころと明るく笑う。

「そんなに難しいことをしているわけじゃないのよ。ちょっと練習すればすぐにできるようになるから」

せっかくできあがった髪を崩しながら、丁寧に仕組みを説明してくれた。芸術かと思われた髪型は、ティアが思っていたよりも単純な動作を組み合わせたものだったことに感嘆する。これくらいなら、慣れてくればほんの少し早起きするだけでなんとかなりそうだ。

「ありがとうございます。でも、なんで?」

手解きを受けながら自分で仕上げてみた髪型を確認しつつ、鏡越しでコニーに訊ねる。

「ずっともったいないと思ってたのよ、あなたの髪。せっかくキレイなのに、いっつもひっつめているだけでしょう?」

思わず目を見開いたティアの肩をぽんと叩いて、コニーは縫製作業を再開する。ティアの髪を編んでいた手が、今度はより一層繊細な動きで針を動かしていた。

「あなたがおしゃれをする気になったみたいで嬉しかったわ。だってまだまだ若いんだもの。可愛くなるのは女の子の特権よ」

針先から目を離さずに口元を緩める。彼女が今手がけているのはフィリスのものだ。上質の生地と華やかな装飾が施されているそれは、たぶん式典用の衣裳だろう。ティアの視線の先に気づいているのか、いないのか。コニーは更に笑みを深めた。

「それにきっかけが好きな人のためだなんて、もっと応援したくなっちゃうじゃない?」

「ひえっ!?」

思わず変なところから出た声が、夜も更けた部屋の中で響く。次いでくすくすとした忍び笑いも。

ガタンと音を立てて椅子から立ち上がったティアは、早口でまくし立てる。

「お、お、お礼にお茶、淹れてきます!」

熱を増していく顔を上げられないままコニーの部屋を飛び出し厨房へ引き返すと、今夜は徹夜になるかもしれないという彼女のために、飛びっきり目が覚める香茶を淹れて持っていった。

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