偽りの姫は安らかな眠りを所望する
無作法に大きな音を立てて閉まった扉を見やり、ラルドはくすくすと笑いを零す。
「ほんと、素直で可愛いなあ。でも、しっかり教育し直さなきゃね」
「本気、なのか」
席に戻り、呆然と座り込んだフィリスは頭を抱える。あり得ないどころか、伯爵家の選択は当然ともいえるものだ。自分でも、あの夜にそう彼女に言い放ったくらいなのだから。
だが理解はできても、簡単に納得はできるものではない。いまさっき、ラルドはなんと零した? フィリスの中にもやもやとした感情が生まれる。
「もし、彼女に思い人がいるのなら、無理強いは……」
「フィリス様こそ、本心からそう思っていらっしゃいますか」
薄ら笑いで問われ、額に当てていた手を目の前で広げた。そこに仄甘い香りをまとう昨夜の熱が蘇り、それを逃がさないよう握り締める。
「ティアをご自分の手元から離したくない、そう願っているのでは?」
フィリスは訳知り顔を向けるラルドから逸らした目を泳がせた。予想外のことを言われたからで、決して図星を指されたからではないと自分に言い聞かせる。
「そんなはずは、ない。私は父とは違う」
己の安らぎのためだけに、他人の人生を奪うようなことはしたくない。それは紛れもなく彼の本心だ。
揺れていた瞳に力を込めラルドを見据えると、失笑が彼の口元から漏れ、フィリスは眉間にシワを刻む。
「なにがおかしい」
「あなたには、よほどここの居心地が良いようですね。現状に不満はない……いや、変えるのが怖い、とか?」
フィリスが眉間のシワを更に深めるが、ラルドの薄い唇はゆるやかな弧を描いたままだ。
「欲しいものがあるのなら、自ら行動を起こさなければ手に入れることはできません。与えられたもので満足するなど、愚者の行いです」
ラルドはティアが置いて行った首飾りを宝石箱に戻し、フィリスの方へと押しやり立ち上がる。
「これはあの娘に渡しておいてください。あなたにも三日の時間を差し上げましょう。それまで、もう一度よくお考えを」
式典の日から逆算したぎりぎりの刻限を告げ、ラルドは館を後にした。
「ほんと、素直で可愛いなあ。でも、しっかり教育し直さなきゃね」
「本気、なのか」
席に戻り、呆然と座り込んだフィリスは頭を抱える。あり得ないどころか、伯爵家の選択は当然ともいえるものだ。自分でも、あの夜にそう彼女に言い放ったくらいなのだから。
だが理解はできても、簡単に納得はできるものではない。いまさっき、ラルドはなんと零した? フィリスの中にもやもやとした感情が生まれる。
「もし、彼女に思い人がいるのなら、無理強いは……」
「フィリス様こそ、本心からそう思っていらっしゃいますか」
薄ら笑いで問われ、額に当てていた手を目の前で広げた。そこに仄甘い香りをまとう昨夜の熱が蘇り、それを逃がさないよう握り締める。
「ティアをご自分の手元から離したくない、そう願っているのでは?」
フィリスは訳知り顔を向けるラルドから逸らした目を泳がせた。予想外のことを言われたからで、決して図星を指されたからではないと自分に言い聞かせる。
「そんなはずは、ない。私は父とは違う」
己の安らぎのためだけに、他人の人生を奪うようなことはしたくない。それは紛れもなく彼の本心だ。
揺れていた瞳に力を込めラルドを見据えると、失笑が彼の口元から漏れ、フィリスは眉間にシワを刻む。
「なにがおかしい」
「あなたには、よほどここの居心地が良いようですね。現状に不満はない……いや、変えるのが怖い、とか?」
フィリスが眉間のシワを更に深めるが、ラルドの薄い唇はゆるやかな弧を描いたままだ。
「欲しいものがあるのなら、自ら行動を起こさなければ手に入れることはできません。与えられたもので満足するなど、愚者の行いです」
ラルドはティアが置いて行った首飾りを宝石箱に戻し、フィリスの方へと押しやり立ち上がる。
「これはあの娘に渡しておいてください。あなたにも三日の時間を差し上げましょう。それまで、もう一度よくお考えを」
式典の日から逆算したぎりぎりの刻限を告げ、ラルドは館を後にした。