偽りの姫は安らかな眠りを所望する
「なんにも隠していたりしていない。さあ、次は僕をどうぞ」
腕を広げて自らの身体を堂々と晒す。びくびくする彼等からのおざなりな検査が終わると、ラルドは再びフィリスの腰を抱く。
「では、ふたりで陛下のご機嫌を伺いに参りましょう。先ほどの騒ぎで、きちんとご挨拶ができませんでしたからね」
寄り添って歩くふたりの後ろで、堅牢な扉が大きな音を立てて閉じられた。
「……いったいなにが狙いだ?」
中にも大勢の人がいるため、フィリスは声を潜めながらラルドを責める。
彼は、フィリスが外套の下に隠し持っているものに気づいたはずだ。それを兵の前で暴くどころか、こうして国王の元へ導こうとしている。
「逆にこちらがお聞きしたい。何をなさろうとしていらっしゃるのです? そんな物騒なものをぶら下げて」
フィリスは外套の上から腰に佩いた剣に触れた。
「父に簡単な願い事をするだけだ。おかしなまねをするつもりは、ない」
固い表情で廊下の先を歩くフィリスに、ラルドはふっと楽しげに息を漏らす。
「まあ、僕は構いませんけどね。なにがあっても。ああ、こちらです」
一際立派な扉の前で立ち止まる。両脇に立つ衛兵に面会の取り次ぎを頼むと、ほどなくして呆気ないほど簡単に許可が下りた。
「久しぶりの親子の対面を邪魔する気はありませんので、僕はこちらでお待ちしています。それでは、ごゆっくり」
奥の寝室へ続く扉の前で、意味深な笑みを湛えたままラルドが立ち止まる。中は、王の命で人払いがされているとのことだった。
音もなく開けられた扉は、フィリスが室内に入るとまた静かに閉められる。
部屋の中央を占める豪奢な寝台が、四方八方に据えられた燭台の灯りに浮かび上がった。
「フィリスか」
大きな寝台の上から声がする。フィリスは足音を消す絨毯を踏みしめ、一歩ずつ近づいていった。
「ご無沙汰しております、父上」
意識してより低い声を出す。案の定、上半身を寝台の上に起こしていたギルバート王は、訝かしげに眉根を寄せている。
「喉の調子が? 体調が悪いなら、なにも無理せずこちらへ来なくても。部屋でゆっくり休むがよい」
自分も少し息苦しそうにしながら言う国王の言葉に、フィリスはゆるりと首を横に振った。留め具に手をかけ外套を脱ぐと、現れたのは紛れもなく青年の肢体。
「そなた、フィリスではないのか?だがその顔は……」
ロザリーとそっくりな顔。間違いようがないと、国王は目を細めてフィリスを見やる。
寝台の縁まで辿り着いた彼が、おもむろに口を開いた。
「フィリスですよ。あなたの息子の」
告白を聞き国王は僅かに目を見開いただけで、静かな呼吸を繰り返す。
「……ご存知、だったのですか?」
腕を広げて自らの身体を堂々と晒す。びくびくする彼等からのおざなりな検査が終わると、ラルドは再びフィリスの腰を抱く。
「では、ふたりで陛下のご機嫌を伺いに参りましょう。先ほどの騒ぎで、きちんとご挨拶ができませんでしたからね」
寄り添って歩くふたりの後ろで、堅牢な扉が大きな音を立てて閉じられた。
「……いったいなにが狙いだ?」
中にも大勢の人がいるため、フィリスは声を潜めながらラルドを責める。
彼は、フィリスが外套の下に隠し持っているものに気づいたはずだ。それを兵の前で暴くどころか、こうして国王の元へ導こうとしている。
「逆にこちらがお聞きしたい。何をなさろうとしていらっしゃるのです? そんな物騒なものをぶら下げて」
フィリスは外套の上から腰に佩いた剣に触れた。
「父に簡単な願い事をするだけだ。おかしなまねをするつもりは、ない」
固い表情で廊下の先を歩くフィリスに、ラルドはふっと楽しげに息を漏らす。
「まあ、僕は構いませんけどね。なにがあっても。ああ、こちらです」
一際立派な扉の前で立ち止まる。両脇に立つ衛兵に面会の取り次ぎを頼むと、ほどなくして呆気ないほど簡単に許可が下りた。
「久しぶりの親子の対面を邪魔する気はありませんので、僕はこちらでお待ちしています。それでは、ごゆっくり」
奥の寝室へ続く扉の前で、意味深な笑みを湛えたままラルドが立ち止まる。中は、王の命で人払いがされているとのことだった。
音もなく開けられた扉は、フィリスが室内に入るとまた静かに閉められる。
部屋の中央を占める豪奢な寝台が、四方八方に据えられた燭台の灯りに浮かび上がった。
「フィリスか」
大きな寝台の上から声がする。フィリスは足音を消す絨毯を踏みしめ、一歩ずつ近づいていった。
「ご無沙汰しております、父上」
意識してより低い声を出す。案の定、上半身を寝台の上に起こしていたギルバート王は、訝かしげに眉根を寄せている。
「喉の調子が? 体調が悪いなら、なにも無理せずこちらへ来なくても。部屋でゆっくり休むがよい」
自分も少し息苦しそうにしながら言う国王の言葉に、フィリスはゆるりと首を横に振った。留め具に手をかけ外套を脱ぐと、現れたのは紛れもなく青年の肢体。
「そなた、フィリスではないのか?だがその顔は……」
ロザリーとそっくりな顔。間違いようがないと、国王は目を細めてフィリスを見やる。
寝台の縁まで辿り着いた彼が、おもむろに口を開いた。
「フィリスですよ。あなたの息子の」
告白を聞き国王は僅かに目を見開いただけで、静かな呼吸を繰り返す。
「……ご存知、だったのですか?」