偽りの姫は安らかな眠りを所望する
* 夏の嵐
* 夏の嵐
久しぶりに遠駆に出ようと厩舎に寄ったフィリスは、そこにダグラスの姿を見留めて眉をひそめた。
「おまえ、ティアとヘルゼントの屋敷へ行ったのではなかったのか?」
問われたダグラスは馬具を手入れしていた手を休め、がっしりと筋肉のついた肩を竦める。
「いえね、馬は自分でも扱えるからついてこなくてもいいって言われちまいまして。しかも、荷物を載せるから荷馬車で構わないって、用意した馬車から馬を付け替えていきましたぜ。あの嬢ちゃん」
護衛も兼ねてダグラスに馭者を頼んだというのに、ここでもまたフィリスの気遣いが無駄になっている。
苛立ちながら愛馬に近づくと、それを敏感に感じ取ったのか馬は耳を忙しなく動かす。
長い首を撫で落ち着かせてから、フィリスは慣れた手つきで鞍を取り付けた。
「おや、姫様。お出かけですか?」
大きな口をにやつかせたダグラスを無視して厩から出ると、ひらりと馬上の人となる。
「今日は少し遠出する。夕刻までには戻るつもりだ」
「はいはい。お気を付けて」
薄汚れた布をひらめかせ見送るダグラスに冷ややかな一瞥を送り、フィリスは馬を走らせた。
この馬の脚なら、途中でティアの荷馬車に追いつけるだろう。
湖から吹くやや湿り気を帯た風を頬に感じながら、フィリスはヘルゼント邸へと繋がる道に僅かに残る轍を辿っていった。
久しぶりに遠駆に出ようと厩舎に寄ったフィリスは、そこにダグラスの姿を見留めて眉をひそめた。
「おまえ、ティアとヘルゼントの屋敷へ行ったのではなかったのか?」
問われたダグラスは馬具を手入れしていた手を休め、がっしりと筋肉のついた肩を竦める。
「いえね、馬は自分でも扱えるからついてこなくてもいいって言われちまいまして。しかも、荷物を載せるから荷馬車で構わないって、用意した馬車から馬を付け替えていきましたぜ。あの嬢ちゃん」
護衛も兼ねてダグラスに馭者を頼んだというのに、ここでもまたフィリスの気遣いが無駄になっている。
苛立ちながら愛馬に近づくと、それを敏感に感じ取ったのか馬は耳を忙しなく動かす。
長い首を撫で落ち着かせてから、フィリスは慣れた手つきで鞍を取り付けた。
「おや、姫様。お出かけですか?」
大きな口をにやつかせたダグラスを無視して厩から出ると、ひらりと馬上の人となる。
「今日は少し遠出する。夕刻までには戻るつもりだ」
「はいはい。お気を付けて」
薄汚れた布をひらめかせ見送るダグラスに冷ややかな一瞥を送り、フィリスは馬を走らせた。
この馬の脚なら、途中でティアの荷馬車に追いつけるだろう。
湖から吹くやや湿り気を帯た風を頬に感じながら、フィリスはヘルゼント邸へと繋がる道に僅かに残る轍を辿っていった。