偽りの姫は安らかな眠りを所望する
傍目には仲睦まじく食事をしているように見えたティアとラルドを、長細い食卓の離れた主賓席からチラチラと盗み見ていたフィリスが、無言で席を立つ。

「おや。お済みですか? 殿下を談話室へご案内して。僕たちもすぐに行くから」

ラルドが控えていたシーラに声をかけると、不機嫌な様子でフィリスが口を曲げる。

「私はもう休む」

「そう仰らず。またとない機会です。三人で語らいませんか? ねえ、ティア。君もフィリス様のお話を聞きたいよね」

疲れるばかりの夕食がようやく終わり、すっかり気を抜いていたティアが不意を突かれて顔を上げた。

「えっ? あ、はい。……そう、ですね」

彷徨わせた視線が己を見据える紫水晶の眼とぶつかって、言葉尻が窄んでいく。
彼が女装をしていた理由は非常に気になるが、一使用人である自分が聞いてしまってもいいことなのだろうか。

一国の王女だと思っていた人物が、実は王子だったというのだ。これは国家機密級の重要事項だろうと、ティアにも簡単に推測できる。

好奇心と忠義心の狭間で瞳を揺らしていると、フィリスが「はあ」と肩を落として息を吐いた。

「こっちはこき使われて疲れているんだ。無駄話に付き合ってやるのは少しだけだからな」

くるりと背を向け食堂から出て行く。
王子である彼に雑用を手伝わせたのは自分だ。ティアの顔色は、赤くなったり青くなったりと目まぐるしく変化していた。

「じゃあ、僕たちも。美味しいお菓子があるんだ。ゆっくり食べながら話をしよう」

フィリスの意志ははなっから無視すると決めていたらしいラルドが、退室を促す。
「これ以上はもう入りません」とは言えず、ティアは引きつった苦笑いを返すだけに留めた。

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