偽りの姫は安らかな眠りを所望する
「当時、両家の勢力はこの国を二分している状態で、陛下はどちらの娘も選ぶことができずにいた」
片方に肩入れすれば、もう一方につく貴族たちの反発を買うのは必至。
たとえ王といえども、独断でおいそれとは決められない。そこでギルバート王は苦肉の策を思いつく。
「ふたりの妃を同時に後宮に入れ、先に男児をもうけた者を正妃とする、と」
ティアは唖然とする。子どもを授かることを、競争のように扱うなんて……。
「まあ、陛下もご自分が晩婚の部類に入ることを気になさっていたようだし、いろいろと噂もあって。王家にとって跡継ぎ問題は切実だからね。数を打てば当たるとでも思ったんじゃないの?」
「か、数? 打つって……。噂?」
「知りたい? あくまでも噂だよ。実は男しょ――」
その意味が分らないほどティアも子どもではない。顔を赤らめていると、また咳払いが聞こえてラルドは口をつぐんだ。
「とにかく、ウチもあちらも、目の色を変えてこの縁組に臨もうとしていたんだ」
もし世継ぎとなる男子が産まれれば、その家は次代の国王の外戚として大きな権力を得ることになる。
多くの貴族にとって、それは限りなく甘い魅力的な地位だろう。
だけど、嫁がされる娘の気持ちはどうなのだろうか。同じ年頃の娘として、ティアはそこが気に掛かった。
「ブランドル候は次女のアイリーン嬢を、父は一人娘をそれぞれ王の下へ送り出すことで話は進んでいたのだけれど、我が家はとある事情でそれが不可能になってしまった」
急にラルドの面差しから色が失われていく。
ティアの背中に、ひやりと嫌な汗が一筋流れた。
片方に肩入れすれば、もう一方につく貴族たちの反発を買うのは必至。
たとえ王といえども、独断でおいそれとは決められない。そこでギルバート王は苦肉の策を思いつく。
「ふたりの妃を同時に後宮に入れ、先に男児をもうけた者を正妃とする、と」
ティアは唖然とする。子どもを授かることを、競争のように扱うなんて……。
「まあ、陛下もご自分が晩婚の部類に入ることを気になさっていたようだし、いろいろと噂もあって。王家にとって跡継ぎ問題は切実だからね。数を打てば当たるとでも思ったんじゃないの?」
「か、数? 打つって……。噂?」
「知りたい? あくまでも噂だよ。実は男しょ――」
その意味が分らないほどティアも子どもではない。顔を赤らめていると、また咳払いが聞こえてラルドは口をつぐんだ。
「とにかく、ウチもあちらも、目の色を変えてこの縁組に臨もうとしていたんだ」
もし世継ぎとなる男子が産まれれば、その家は次代の国王の外戚として大きな権力を得ることになる。
多くの貴族にとって、それは限りなく甘い魅力的な地位だろう。
だけど、嫁がされる娘の気持ちはどうなのだろうか。同じ年頃の娘として、ティアはそこが気に掛かった。
「ブランドル候は次女のアイリーン嬢を、父は一人娘をそれぞれ王の下へ送り出すことで話は進んでいたのだけれど、我が家はとある事情でそれが不可能になってしまった」
急にラルドの面差しから色が失われていく。
ティアの背中に、ひやりと嫌な汗が一筋流れた。