偽りの姫は安らかな眠りを所望する
* * *
ひと月後。ロザリーの姿は、王城の奥、後宮の一室にあった。
ヘルゼント伯爵は、自分の娘が急な病で妃候補となれなくなったことと、その代わりにロザリーを推す了承をギルバート王から得る。
当然の如くブランドル家側からは猛烈な抗議を受けたが、彼女と対面した王が押し伏せる。
質素な装いから一変し、ヘルゼント家の威信をかけて磨き上げられたロザリーの美しさは、いままでさほど女性に興味を示すことのなかった国王の意識をも変えさせたのだ。
それでも両家の間に過剰な波風を立てるわけにはいかず、ギルバート王はふたりの正妃候補の部屋を、律儀に偏ることなく訪れていた。
この分なら御子の誕生もすぐかと思われたが、そう簡単なものではない。
ふたりが後宮に入ってから二年以上が経ち、さすがに周りが不安を囁き始めた頃、ようやく懐妊の報が届く。
先んじたのはアイリーン。それにひと月余り遅れてロザリーが続く。
ふたつの吉報に城内は色めき立つが、その腹が膨らんでいくにつれ、今度は殺伐とした空気が漂い始めていた。
どちらが男児を産むか。ヘルゼント、ブランドル、両家にとってはなによりも気になる事柄である。
その緊張は産み月が近付くにつれ高まり、城下では、気楽な国民たちの賭けの対象となるほどだ。
順番からすれば、アイリーンの出産が先。
ブランドル候は、人知れず怪しげな術師に男子が産まれるよう祈祷をさせている、との噂もまことしやかに流れていたが、ことは意外な展開を迎える。
ロザリーの方が先に産気付いたのだ。
予定よりもひと月以上早いお産の知らせは、周囲を大いに慌てさせた。
ブランドル家にとっては寝耳に水の話である。
万が一ロザリーが男子を出産してしまったら、アイリーンが男の子を産んでも、もう遅い。
だがヘルゼント家にとっては、早産の危険が付きまとう。たとえ腹の子が男だったとしても、無事に産まれ元気に育つのか。
あまりに身勝手とも言える両家の思惑が錯綜する中、ふた晩に渡る難産の末、ようやく城にか細い産声が届いた。
ひと月後。ロザリーの姿は、王城の奥、後宮の一室にあった。
ヘルゼント伯爵は、自分の娘が急な病で妃候補となれなくなったことと、その代わりにロザリーを推す了承をギルバート王から得る。
当然の如くブランドル家側からは猛烈な抗議を受けたが、彼女と対面した王が押し伏せる。
質素な装いから一変し、ヘルゼント家の威信をかけて磨き上げられたロザリーの美しさは、いままでさほど女性に興味を示すことのなかった国王の意識をも変えさせたのだ。
それでも両家の間に過剰な波風を立てるわけにはいかず、ギルバート王はふたりの正妃候補の部屋を、律儀に偏ることなく訪れていた。
この分なら御子の誕生もすぐかと思われたが、そう簡単なものではない。
ふたりが後宮に入ってから二年以上が経ち、さすがに周りが不安を囁き始めた頃、ようやく懐妊の報が届く。
先んじたのはアイリーン。それにひと月余り遅れてロザリーが続く。
ふたつの吉報に城内は色めき立つが、その腹が膨らんでいくにつれ、今度は殺伐とした空気が漂い始めていた。
どちらが男児を産むか。ヘルゼント、ブランドル、両家にとってはなによりも気になる事柄である。
その緊張は産み月が近付くにつれ高まり、城下では、気楽な国民たちの賭けの対象となるほどだ。
順番からすれば、アイリーンの出産が先。
ブランドル候は、人知れず怪しげな術師に男子が産まれるよう祈祷をさせている、との噂もまことしやかに流れていたが、ことは意外な展開を迎える。
ロザリーの方が先に産気付いたのだ。
予定よりもひと月以上早いお産の知らせは、周囲を大いに慌てさせた。
ブランドル家にとっては寝耳に水の話である。
万が一ロザリーが男子を出産してしまったら、アイリーンが男の子を産んでも、もう遅い。
だがヘルゼント家にとっては、早産の危険が付きまとう。たとえ腹の子が男だったとしても、無事に産まれ元気に育つのか。
あまりに身勝手とも言える両家の思惑が錯綜する中、ふた晩に渡る難産の末、ようやく城にか細い産声が届いた。