偽りの姫は安らかな眠りを所望する
三日間ほど、ロザリーは夢と現を行ったり来たりしていた。
目が覚めている間は、子どもを傍らに置き片時も離さずにいる。
あいかわらず鳴き声に頼りなさが残るものの、産婆の予想に反しお乳もよく飲みよく寝る子だった。

「具合はどうだ」

母乳を飲み終えた子を寝かしつけながら、自身もうとうととしていたところへ来客がある。

「……陛下!」

慌てて寝台の上で身を起こし身なりを整えようとする彼女を、国王は優しく肩を押して横に戻す。

「かなりの負担があったと聞いた。無理はしなくてよい」

ロザリーの横で静かに眠っている我が子との初めての対面に、国王は戸惑いの表情を見せた。

「小さいな。赤子とは、皆このようなものなのか?」

「この子は早くにお腹から出てきてしまいましたから、特別ですわ」

愛おしげに子を見つめるロザリーの面やつれした頬にかかる髪を、王は武骨な手がぎこちない動きで取り払う。
そのまま頬に添えられると、ロザリーは己の手を重ねた。

「……アイリーンが昨夜、男子を産んだ」

気遣わしげな声音で告げられ、ロザリーがぴくりと長い睫毛を揺らしたのほんの一瞬。すぐさま笑みを作る。
昨日から続く落ち着きのない城内の様子に予想はしていた。カーラたちはなにも言わずにいたが、国政に関わる大事をそううまく隠せるものではない。

「まことにおめでとうございます。アイリーン様もお子様も、お健やかで?」

「そう聞いている」

ということは、跡継ぎとなるアイリーンの子よりもこの子に先に会いに来てくれたのだろうか。
彼女は怠さの消えない身体を鼓舞して身を起こした。

「陛下。折り入ってお願いがございます」

手を貸し支えた身体が羽のように軽いことに、王が眉根を寄せる。背中に回された彼の手には骨が当たっていた。

「そなたが頼み事とは珍しいな。構わんぞ、出産の祝いだ。なんでも申すがいい。ただ、王妃の位だけは……」

ロザリーは力なく首を横に振ると、いったん我が子の顔を見やってから国王と向き合う。
ひとつ、深く呼吸をした。
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