偽りの姫は安らかな眠りを所望する
深く被った帽子が、雪のように透明感のある白い顔に影を落とす。
そこから零れ、小さな顔の周りを飾る絹糸のような髪は白金で、木漏れ日を反射して輝く。
不躾にティアを値踏みするような瞳の色は、紫水晶のように硬質な美しさのある色だった。
作りものじみた完璧なまでの美しさに、瞬きをすることさえ忘れて魅入ってしまう。
ラルドで美形には多少の免疫があると思っていたティアだが、彼とは種類の異なる美しさの前ではそんなことは意味のないものだった。
「聞こえていないのか?」
まだ大人になりきれていないやや高めの声と一緒に、ストンと枝を揺らして降りてくる。
その無造作な一連の動きさえ、まるで白鳥が静かな湖面に着水するような優雅さだった。
「え? あ……」
呆気にとられて言葉もでない。
「その大きな耳は飾り? ああ、わからないのか」
目の前に舞い降りた彼は細い腕を伸ばし、桜貝のような爪が守る指先がティアの濃紺の髪を一房搦め捕る。
「珍しい色だな。髪も、瞳も。明けない夜を思わせる」
言葉に乗ってふわりと甘い薔薇の香りが届いた。
それに意識を攫われているうちに、伸びてきた腕がティアの髪をまとめていた飾り紐を解くと、自由になった髪を愛おしそうにさらりと撫でる。
滑り下りてきた手がすくい取った毛先に唇を寄せられた。
間近に見える陶器の如く滑らかな肌、伏せた長い睫毛。思わず息を呑んでいるうちに、濃さを増す――薔薇の香り。
「っ!?」
目と口が艶やかな弧を描きながら遠ざかっていく彼の満足げな顔で、ティアは己の身に起きたことの意味にようやく気づく。
「な、な、なに、すんの……?」
「なんだ、この国の言葉を知らないわけではないのか」
興味を失ったようにすっと凍っていく瞳に、ティアの心も冷えてく。
そこから零れ、小さな顔の周りを飾る絹糸のような髪は白金で、木漏れ日を反射して輝く。
不躾にティアを値踏みするような瞳の色は、紫水晶のように硬質な美しさのある色だった。
作りものじみた完璧なまでの美しさに、瞬きをすることさえ忘れて魅入ってしまう。
ラルドで美形には多少の免疫があると思っていたティアだが、彼とは種類の異なる美しさの前ではそんなことは意味のないものだった。
「聞こえていないのか?」
まだ大人になりきれていないやや高めの声と一緒に、ストンと枝を揺らして降りてくる。
その無造作な一連の動きさえ、まるで白鳥が静かな湖面に着水するような優雅さだった。
「え? あ……」
呆気にとられて言葉もでない。
「その大きな耳は飾り? ああ、わからないのか」
目の前に舞い降りた彼は細い腕を伸ばし、桜貝のような爪が守る指先がティアの濃紺の髪を一房搦め捕る。
「珍しい色だな。髪も、瞳も。明けない夜を思わせる」
言葉に乗ってふわりと甘い薔薇の香りが届いた。
それに意識を攫われているうちに、伸びてきた腕がティアの髪をまとめていた飾り紐を解くと、自由になった髪を愛おしそうにさらりと撫でる。
滑り下りてきた手がすくい取った毛先に唇を寄せられた。
間近に見える陶器の如く滑らかな肌、伏せた長い睫毛。思わず息を呑んでいるうちに、濃さを増す――薔薇の香り。
「っ!?」
目と口が艶やかな弧を描きながら遠ざかっていく彼の満足げな顔で、ティアは己の身に起きたことの意味にようやく気づく。
「な、な、なに、すんの……?」
「なんだ、この国の言葉を知らないわけではないのか」
興味を失ったようにすっと凍っていく瞳に、ティアの心も冷えてく。