君に捧ぐ、一枝の桜花
「香りがすごくいいんだ」
「香り?」
「うん。今もこの距離で微かに香っているよ。綺麗な花を咲かす花は香りがいいって本に書いてあったから」
「そう・・なのか」
「僕、見てみたいなあ。吉野の桜」
「いつか見ればいい」
「え?」

吉野は怪訝そうに眉を寄せていた。

「いつか自分の目で見ればいいだろう。しかし、我の社は山の上。軟弱なお前はすぐ、息を切らすだろうな」
「そんなことをしないでさ、吉野が僕を運んでくれたらいい」

小さな山の上の社。今でも、地域の人に大切にされ祀られている。

「あいにく我は、男を運ぶ趣味などない」
「うわあ、それってむっつりスケベ発言だ。いや、解放型スケベだっけ?」
「あらぬ誤解をかけるな!」

吉野は、ばしばしと明の頭を叩く。痛い、痛いと攻撃から逃れようとするが、逃げ場がない明はされるがままだ。

「吉野。有り難う」

だから、その時に言った言葉は聞こえなかったかもしれない。
けれど、それは確かに吉野に伝わっていた。




< 16 / 28 >

この作品をシェア

pagetop