君に捧ぐ、一枝の桜花
(な、なんだったんだ・・)

どうやら、吉野は来てはいけないときに来てしまったらしい。

(帰ったほうがよさそうだな)

こんなのを見た後にまともに明の相手を出来そうに無かった。

「盗み見なんて犯罪だよ、吉野」
「っつ!?」

振り返れば、窓を開けて吉野を見上げる明。

「・・・・・げ、元気か?」
「身体は不調、心は不機嫌かな」

頑張って言った言葉を返されてにっこりと微笑まれた。

「とりあえず、入りなよ」
「あ、ああ」

病室に招かれ、防音室に向かう明の後について行く。
明はグランドピアノの鍵盤に手をかけると、何か曲を弾き始めた。両手が器用に動き、音色を奏でる。

「お前・・結婚するのか」
「しないよ。両親が勝手に勧めてるだけ」
「・・そうか」

沈んだ吉野の声と明を見る視線。明は演奏する手を止めて、こめかみをかく。


「もう!しょうがないなー」

くるっと吉野の方に身体を向け、言い聞かせるように語り始めた。

「あのね、実は僕には婚約者がいるんだ」
「婚約者!?」
「そう、名前は伽夜。さっきいた子は伽夜の双子の妹で璃珠。男の方は僕の弟、波琉。僕と伽夜たちの母親同士が親友同士で僕たちは幼馴染だったんだ」

突然、語り始めた明に吉野は混乱しつつも耳を澄ませる。

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