君に捧ぐ、一枝の桜花
「10歳までは三人でよく遊んだよ。僕と伽夜はお互い好きで大きくなったら結婚しようねと約束した。両親たちも認めてくれてた。その時に僕は伽夜に指輪をあげたんだ」

そう言うと、左手を吉野へ向けてきた。薬指にはめられた四葉をあしらったシルバーリング。

「でもね、ある日伽夜は記憶喪失になって全て忘れた。両親のことも、弟妹のことも僕のことも・・。そして、父親と弟と一緒に遠くへ引っ越した。母親と璃珠はこっちに残ったけれどね。でも、離婚はしてないよ。」

明は吉野に見せると、その指輪を愛しそうに撫でた。

「両親はね、数年経ったらきっと伽夜の記憶は戻ってくるって思っていたらしい。けれど、そうならなかった。だから、僕が18歳になったらすぐ伽夜の妹と結婚させようとしたんだ」
「何故そこで、妹と結婚になるんだ」
「1年前に伽夜たちの母親が亡くなったから」

明は楽譜をおいてある棚の引き出しから、写真を持ってきた。それを吉野に渡す。小さい明と少女2人―きっと伽夜と璃珠だ―が仲良くピアノの周りで遊んでいる。

「璃珠は今、祖父母のところで暮らしている。伽夜たちの母親は亡くなる前に僕の母に「璃珠を頼む」って言ったらしい。伽夜のこともあって、僕と璃珠の結婚話が上がったわけ」

母親が亡くなったときに、父親に引き取らせることはできなかったのだろう。父親のほうには記憶喪失の伽夜が居るのだから引き取れない。

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