君に捧ぐ、一枝の桜花
その後日、明は再び大きな発作を起こし重体になった。発作は治まったものの、脳に異常は見られないはずなのに意識だけが戻らない。1ヶ月、眠り続ける明の傍には璃珠の姿がいつもあった。

「お前もかわいそうな者だな・・」

明を静かに見下ろす璃珠の隣に立ち、話かける。しかし、その姿が映ることはない。

「明ちゃん・・・」

弱々しく呼ぶ声。璃珠はベッドの隣にあるサイドボードの引き出し引っ張った。

「手紙・・?」

そこにあったのは、丁寧に封筒に入れられた手紙の数々。宛先にはどれも「古嶋伽夜様」と書いてあり、切手まで貼ってある。璃珠はそれらの1つを手にとって中身を空けた。

『元気かな。僕は相変わらず、狭い世界で生きてるよ。この前、雪が降ったけれど風邪なんか引かなかった?裏庭に雪が積もって小児科にいる子供たちが喜んで・・』

文面に、明の丸っこい文字が綴られていた。

『もうすぐ桜が咲く季節だね。昔のように、お花見したいなあ。今度は二人で、暖かな日差しの中昼寝をするのも捨てられないかも。きっといい夢を見れる』

文章1つ1つが明から伽夜への言葉だった。そして、最後に自分に問いかけるように綴られている。

『ねえ、伽夜。僕は君が好きだよ。僕を忘れても、ずっとこれからも・・君だけを想うよ』

引き出しにあった手紙は、出したかったけれど出せなかった明の手紙。伽夜の記憶と共に行き場を失くした明の想いたち。

「・・ど・・して・・」

璃珠が手紙をくちゃくちゃに掴んで泣いていた。

「どうして・・っ、お姉ちゃんなの・・?」

座り込み、嗚咽する璃珠を吉野は悲しそうに見つめる。
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