君に捧ぐ、一枝の桜花
床に座ったまま、ベッドに横たわる明の顔を呆然と見つめる。

『せめて吉野は僕のこと、明(あき)って呼んでくれる?』

ふとそんな明の声が脳裏に浮かんだ。吉野は床に着いた両手を握り締めた。

「・・こんなに別れが早いならば、呼べば良かったものをっ!」

出会ってから最初の願いだった事を自分は跳ね除けた。
吉野は頭をふる回転させて、考える。






「あら?」

看護婦らが明の身体を運ぶために病室に入ってくると、さっきまでなかったものが枕元に置いてあった。

「これ、さっきあった?」
「なかったわよ。それに今は桜が咲く季節でもないのに、不思議ねえ」
「でも・・こんな季節に桜なんて素敵ね」

それは一枝の桜だった。紛れもない、薄い桃色の可憐な桜花だった。

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