君に捧ぐ、一枝の桜花
「ところで吉野は此処に何しに来たの?」
「・・お前を見に来た」
「僕?僕を見たって面白くないし、楽しくないし、何も出ないよ」

意外な吉野の返事に明はくすくすと笑う。

「防人を一度、この目で見ておきたかった」

その吉野の一言で明の笑いは機械仕掛けのように一瞬で止った。

「・・『防人』か。皆、そう僕を呼ぶよね」

今まで笑っていた明は悲しそうに少し俯いた。ここでの『皆』とは非科学的存在達を差す。

「そもそも、そんなに珍しい?防人ってさ」
「ああ。防人は稀だ。我は何百年と生きているが、見たのは初めてだ」

防人。
数百億分の一で生まれるとても霊力の高い者。知らず知らずのうちに周囲にいる霊を除霊したり、未来を予知したりなど数奇な能力がある。
人間ならざる者の方に性質上、近いため、人間としてなんらかの欠陥があり、人でありながらも人から遠い存在。そのため「防人」と呼ばれるらしい。

「僕は防人っていう名前じゃなくて、『明』なんだけどなあ。日のように心温かく、月のように冷静に周囲の人を照らすって意味なのに」

あのさ・・と明は短く言葉を区切った。

「せめて吉野は僕のこと、明(あき)って呼んでくれる?」

固い声音が辺りに響き、じっと真剣な表情を浮かべて吉野を射抜くように見つめる。

「なんで、我が・・」
「って、嘘だよ」

明はにっこりと笑う。何事もなかったかのようにその場の空気が変わった。吉野は窓から降りて明に背を向ける。

「あれ?もう帰るの?」
「ああ。お前に会って話したからな。聊か、時間を食ったが我の目的は果たした」
「そんなに時間を気にするほど、精霊って忙しいの?」
「その時期による。冬は春に花を咲かすため休息をとらねばならぬし、春は決められた時間中、花を咲かせなければならぬ」
「ふーん・・そうなんだ。ねえ、また来てよ」


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