どこまでも、堕ちていく。

園児や保護者1人1人に元気な挨拶を繰り返すその男性。
いや、元気すぎて先生たちの中でも少し浮いている。
落ち着きのない動きと極端に大きすぎる声。
小柄で緑色のチェックのエプロンをした彼は20代半ばくらいだろうか?

「何だか朝から元気だね。実習の学生さん?」

由美もその男性に興味津々な様子。
さくら幼稚園に男性教諭は1人しかおらず、しかもその先生は30代前半位だったはずだ。

「うーん?新学期の早朝から実習はないんじゃないかなぁ」

もしかしたら新米の先生なのかもしれない。
そんなことを考えながら彼がいる門の前へと近づいていく。

『おはようございます!』

テンション高めにそう挨拶され軽く会釈をする。
そしてゆっくりと彼のほうを見上げると、真っ直ぐでキラキラとした瞳と目が合った。
ほんのりと栗色の髪にベビーフェイスの顔。


…ドクン


彼と目が合ったその瞬間、自分の中で何かが弾けた。
そんな気がした。

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