ケンショウ学級
「ちょっと、早くでてきてよ」
「なげーよ、はやく!」
この緊張状態と密室にいることのストレスで皆の体調はガタガタだ。
そこにカレーを無理矢理掻き込んだもんだからトイレは今、渋滞になっていた。
「ねぇ、藍斗…………」
「うん?」
小池っちの小さな声。
僕はお腹を圧迫しないように顔を動かさないで聞く。
「原田さん、大丈夫かな?」
「…………うん、心配だね。みんな」
最初の犠牲になった小野さん。
原田さんと小野さんはいつでも一緒にいた。
それは一年生の頃からだったから、本人に確かめることなんてできないけれど野比先生とのことも少しは知っていたのかもな。
救ってあげられなかったと悔やんでいるのだろうか。
「僕らどうなっちゃうんだろうね?」
「うん、怖いな…………」
それは決して小池っちの心境の代弁などではなく、自らの本心だった。
お互いに言葉をなくすと、小池っちがすすり泣くのが背中で分かった。
泣きたいよ。
怯えたいよ。
怒りたいよ。
叫びたいよ。
もういっそ…………なんて。
「あ、トイレ空いた」
僕はトイレの周りに人がいないことを再三確めて、道具入れの中のそれを、ワイシャツの中に隠した。
そして、何食わぬ顔を装いながらトイレへと向かう。
「藍斗」
しかし、トイレの手前で止められる。
「は、春馬。なに?」
春馬はなんだか厳しい目線でこちらを見ているような気がした。
「トイレか?見張っとくよ」
そう言って春馬はいつも通り笑った。
僕は安心して少し笑った。
「うん、誰か入りたそうになってたら教えて。なるべく早くする」
「おお」
僕はトイレの中へと入ったいった。
この春馬とのやり取りを数人の生徒が見ていたことも気づかないで。