ケンショウ学級

トイレは男女が兼用できるように洋式の便器になっていた。

教室の後ろの扉に備え付けられていること以外は特に変な部分はない。

トイレの個室くらいの空間はあるし、あれだけの生徒が入ったのに特に深いな臭いなども残っていなかった。

「ん?誰かがわざわざ入れ換えてる?」

不自然だったのはトイレットペーパーで、あれだけ皆が使っていたのに新品に近い状態で、端を三角に折ってある。

「委員長とかかな?こんな細かいことするの」

一応紙がなくなった時用に便器の奥には二個トイレットペーパーのロールが置いてあった。

その反対にはトイレ用のブラシ。

「いいや、今はとにかくこれだ」

僕は机に出すときから慎重に誰にも見られないように持ち出したそれを取り出す。

『心理実験の概要と効果』

僕は便器にズボンは下ろさずに座った。

そして、大上先生から渡されたその本をめくっていく。

「…………やっぱり」

目次の時点で僕は重要なことに気付いた。

目次には大まかな項目として心理実験の名称が並んでいる。

「まえがき・心理実験の意義と真偽」

「第一章・パブロフの犬」

「第二章・ブアメードの血」

ここまでの実験はこの本の通りに進んでいる?

じゃあ、次の実験になるのは。

「第三章・ミルグラムの実験」

ミルグラムの実験!?


僕も興味本意で調べた概要しかしらないけれど、危険な実験の内の1つだ。

「この実験。もし本来の通りに検証すればそれほど問題はない。でも…………」

僕はここまでの実験を振り返る。

パブロフの犬ではわざわざ彼検体を犬から人間にすり替え。

ブアメードの血は元から命を奪うためのものであった。

まだこれは僕の想像でしかないんだけど、アイツの狙いは心理実験の検証などではない。

そう見せかけた殺戮ゲームだ。

「けど…………本当にまずいのは次回じゃない。その次…………この実験は最悪の場合クラスの半分以上が死ぬ」

僕はパラパラとページをめくっていき、あとがきに目を落とした。

その時、本の背表紙になんとなく違和感を感じた。

「あれ?ページが二枚くっついている?」

よくよく見ると最後のページが二枚くっついている。

それは、まるでここを剥がしてくださいとでも言わんばかりに、左下の端っこだけがめくれていた。

「これ、ページの周囲だけに薄くのりが貼ってある」

剥がし始めると簡単に二枚重なったページが開いていく。

数十秒かからずにページは離れた。

「…………これは!?」

そこには赤い字でメッセージが書かれていた。

僕はその赤い10文字に驚きを隠せなかった。
< 101 / 235 >

この作品をシェア

pagetop