ケンショウ学級
友澤くんは僕の手から本を取り、パラパラとページをめくっていく。
確認作業においてこの教室で友澤くんに優る人は居ない。
それを誰もが分かっているから、皆なにも言わずにその様子を見ていた。
「『パブロフの犬』、『ブアメードの血』、『アイヒマン実験』確かに順番通りだそれに、斜め読みだから確かなことではないんだけど…………
心理学実験の概要と効果における考察という章が各実験の論文の最後にあるんだけど、その内容が被験体を人体へ置き換えることへの重要性を解いていたり、特定の被験者ではなく不特定多数から実験体を選ばなければ効果の有用性は確立できない。といったことに触れている」
「いや、委員長なに言ってるのかさっぱりなんだけど?」
田口くんがそう言うのも無理はない。
いったいこの情報の中に友澤くんは何を見ているのだろうか?
「つまり、ここでの考察で述べられたことを『ケンショウ学級』で実践しているんだ!!」
「じゃあ…………やっぱりこの本が影響しているってことで間違いないのか?」
おそらくそれは間違いない。
すると、春馬がポツリと呟いた。
それを聞いた皆の視線は射ぬくように本に再び目を戻させたのだった。
「著者は?」
なんで僕はそんなことにすら頭が回らなかったのだろうか?
僕は友澤くんの様に斜め読みでも論文を概ね理解して、その考察にまで考えを巡らせることはできなかった。
それは、昨日の夜のトイレの時間が限られていたからではなく、単純に僕の頭脳がその答えを導きだすのに足りないことを示す。
でも、この本が『ケンショウ学級』に影響していることは本能的にも確かに感じたんだ。
だったら自ずと、この本を作成した人物が深く関わっていることも気づけたはずだったのに。
「著者の欄は…………だいぶ日焼けしてるな」