ケンショウ学級
友澤くんは背表紙の前ページに書かれている著者の欄に目を向けた。
それは日焼けがひどく、恐らくは著者の写真が貼られていたであろう四角の枠の中は見ることができなかった。
「なんだ?日本人なのにローマ字表記になってる?「A」、「t」、「u」、「s」、「i」…………「アツシ」?」
アツシ?それがこの著者の名前なのか?
でも、何かが引っかかる。
「つづり…………」
いち早くその違和感の正体に迫ったのは秀才の中澤さんだった。
本当にこの成績優秀男女は便りになる。
「『あつし』だったら「s」と「h」が1つずつ足りない。それじゃアテュスィになっちゃう。可笑しいよ」
ローマ字表記をするなら「つ」は「tu」ではなく「tsu」、そして「し」は「si」ではなくて「shi」だ。
違和感の正体はこれだ!
だとしたら、この違和感から推測できることがある。
ドラマや漫画の受け売りに過ぎないけど、検証の余地はある。
「アナグラムかもしれない」
僕の声に数人が反応して、すぐさま解読に取りかかった。
大多数はぱかんとしているけど。
「アナグラムってなんだよ?勉強オタ」
亮二の質問に簡潔に答えようにも、そこはドラマや漫画でのことを伝えることしかできないのだけれど。
「ドラマや漫画の犯人がわざと名前のつづりとか文章の順番を組み換えて作る暗号みたいなものだよ。
まぁ、これがアナグラムであるか表記ミスかは分からないけれど」
そう言っている時だった。
原田さんがはっと口を手でおおった。
そして、小さい声で言う。
「『アイツ』…………「a,t,u,s,i」ではなく「aitsu」でアイツ。
これならローマ字でも表記ミスはないよね」
発見であると同時に僕らは無意識に落胆した。
「これはアイツ…………あの画面越しのアイツが作った著者で、それをケンショウする為の実験」
「これで、政府がよりよい未来の為に…………なんて言っていたことが嘘で、全てはアイツの自己満足の為の実験だということが分かったな。
いや、分かってしまったと言うべきなのかもしれない」