ケンショウ学級
寺井くんは倒れた衝撃で左手のソレを手放していた。
距離にしてわずか20センチといったところだろうか、ソレは転がっていた。
「くそっ…………こんなんで、こんなんで終われるかよ!」
右肘を地面に擦りながら、寺井くんは必死で左手をソレに伸ばしていく。
また一滴の血が散った。
あと10センチ。
5センチ。
2センチ。
伸ばした左手がソレに触れるか触れないかの時だった。
「ぎぃやああああああああっ!!」
それまで傍観していた白仮面が、寺井くんの伸ばした左手を思いきり踏みつけた。
寺井くんの痛がり方が尋常ではない。
骨折をしたのだろうか?それとも、何か分からないソレが影響している?
「痛い、痛いよ。やめろ!やめてくれよぉお!」
白仮面は無機質に、グリグリと左手を踏んでいる足を動かしている。
そのうちに左手から血が広がっていった。
ゆっくりと、鮮血が沸く。
「佐野くん!あれはいったいなんなんだ!?」
僕は思わず佐野くんへと駆け寄っていた。
普段通りならこんな問い方をすれば、ただでは済まなかっただろう。
この、異様な空間だったからか佐野くんは小さく素直に教えてくれた。
「カッターの芯だ。カッターの芯を折って、練り消しに隠して寺井の机の足にいつも潜ませていた」
カッターの芯。
それで白仮面の喉元を切り裂くつもりだったのか?
それが逸れて白仮面に刃物の存在がバレて、今はソレを逆手に傷つけられている。
こんなの、こんなのひどすぎるじゃないか。
「ねぇ、白仮面を様子がおかしいわ?」
中崎さん乗る言葉に、はっとモニターに視線を戻した。
白仮面は依然として寺井くんの左手を捻り潰しているが、斜め上の監視カメラを見つめているようだった。