ケンショウ学級
その日の夕食を終えた後、佐野くんの提案で『犯人探し』が行われることになった。半ば命令ではあったのだけれど、やっぱり皆の気持ちも一緒だった。
「まずこの中に犯人がいるってのは確かなことだ。だがオレは断じて犯人なんかじゃねぇ。何故ならオレには心理学だかなんだかの知識なんてねぇからだ!」
無理矢理な理屈だけど、確かに学力や専門知識がなければこんなゲームは思いつかない。だとしたらやっぱり怪しいのは学年トップを争う委員長と中澤さん、言いたくないけれど原田さんも成績が良い、そして心理学に興味を持っている僕ということになる。
「そんでよ。犯人が分かるかは分かんねぇけど、一つだけはっきりさせることができることあるよな」
佐野くんの言葉に皆はキョトンとしていた。
今の時点ではっきりしていること?なんの事だ?
佐野くんは無造作に左腕の袖を肩までたくしあげた。
「白仮面だよ。アイツは寺井につけられた左肩の傷があるはずだろ。
それにアイツは『犯人はこの教室にいる』と言っただけで1人だけとは言ってねぇ。つまり共犯者もこの中にいたとして何も不思議はねぇだろ」
「たっちんすげぇよ!確かにそうだ。
よし、皆取り敢えず左肩見せろ。自分の潔白を証明しようぜ」
佐野くんに続いて田口くんも左袖を捲り上げる。
「確かにそうだよな」
「うん、それで犯人じゃないって分かるならね」
「そうよね、自分の潔白ちゃんと証明したいもんね」
次々と皆が左袖を捲りあげて肩を露出させていく。僕も皆に続くように袖を捲りあげていく。
「……おい、なんで見せようとしねぇんだ?
見根津、笹木ぃ」
佐野くんは春馬の机に足を乗り上げて、威嚇するように睨みつけている。
「そういえば……」
さっきの検証のモニターを見ている時に僕がたまたま春馬にぶつかった時があったけど、あの時の春馬のリアクション大袈裟だったような。いや、でも白仮面が肩を切られたのは春馬も一緒に動画を見ていたわけで。。。
「なぁ、なんか見せられねぇ理由でもあんのかよ?あぁ!?」
佐野くんの威嚇に見根津さんは震えて、涙を堪えながら袖をまくり始めた。
「ふっ、うぅ」
涙を流しながらまくった見根津さんの左腕には大きな痣があった。それも1箇所や2箇所ではない。
「虐待……なの?」
見根津さんは1度だけコクリと頷くと、机に顔を埋めてぐすぐすと泣いている。
佐野くんは机にかけてあった学ランを取って、見根津さんに羽織らせた。
「すまねぇ見根津。でも、お前は犯人じゃねぇよ。
……悪かったな」
「うぇっ、うえぇん」
きっとこのケンショウ学級がなければ皆に知られることはなかったことだったろう。見根津さんは肩を震わせて泣いている。