ケンショウ学級
「おやおや、これはいけないな」
アイツの放送が続いていた。次はなんだ?あまりにも衝撃的なことが一挙に押し寄せて、何が起こっているのか理解が追いつかない。
アイツの見ていた最後のモニターは囚人達が入ってきた通路を映し出していた。囚人服と看守の制服を着た生徒が脱走を図っているのだろう。
「出してくれ!もうこんな所でやっていられるか!」
「家に帰りたい。なんで、なんで私達がこんな目にあわなきやならないのよぉおっ!!」
「ママ、パパ……ミケ会いたいよ」
通路の奥の扉はしっかりと施錠されていて開かない。思い切り叩いてみても、3人で思い切り押してもどうともならなかった。
モニターに映された囚人は中澤さん、看守は森下さんと仁科くんだった。3人は金子くんの死体を見た瞬間に耐えきれなくなり、逃走を図ったのだろう。
「ここから出たいと言うことは、途中棄権をするということで良いのですね?中澤さん、仁科くん、森下さん」
そう、まだ3人は見根津さんが途中棄権によって殺されたことを知らない。これはアイツからの死刑宣告の様な、そんな確認作業に過ぎなかった。
「戻ってこい!殺されるぞぉ!!」
叫んだのは佐野くんだった。僕には何も出来なかったのに、ただ委員長や金子くん、見根津さんの死んでしまったことに絶望して腰を抜かした弱者だ。
「なんとかして止めよう、たっちん」
「中澤!森下!仁科!てめぇらどこにいる?!
戻ってこい!!」
2人は考える間もなく動き出していたんだと思う。3人を止めに行くことが正しいことなんて、ここで腰を抜かしている僕にもわかる事だし、泣いている人、震えている人だって分かってた。
でも、佐野くんみたいに声に出なかった。田口くんみたいに走り出すことはできなかった。
不良グループなんて言って敬遠してた。僕とは生きている場所が違う、考え方だって違うのだと一線を引いていた。嫌悪感なんて逃げ腰の言葉じゃない、そうだこれは憧れや嫉妬という感情だ。
「もう、いいよこれ以上苦しむのなら殺して」
「あぁ、もうどうでも良い……」
中澤さんも仁科くんも最後の言葉を振り絞った。森下さんは泣きながら頷いていたそうだ。
「……いた!
おい、お前ら戻ってこい!!」
独房や事務室を探し回り、息を切らした佐野くんと田口くんが消毒液の匂いが染み込んだ通路の奥に3人の姿を見つけた。
「3人とも途中棄権の意志を示しました。罰を与えます」
佐野くんが飛び出そうとするのを、田口くんが咄嗟の判断で止めた。森下さんの足が消毒液に浸っていたのだ。田口くんの判断が遅れていれば濡れた通路に佐野くんも入ってしまい感電に巻き込まれてしまっていた。
「いやぁぁぁぁぁあっ!!」
「痛い。痛っいたたあたあたあたあがああっ!!」
「ママ!ママぁ!ギィヤァァアァァアッ!」
3人がバラバラに弾けて、乾ききらない消毒液の水溜まりを転がり回っていた。通電した部屋一帯が光を放ち、3人の断末魔が止んだ時には、消毒液と焼け焦げた死臭が混ざりあった悪臭に満ちていた。
田口くんがその臭いと、目の前で命を落とした3人の姿を見て座り込んで吐いている。
「うげぇえ!おぇえ」
佐野くんはわなわなと震える手で、田口くんの背中に手を当てていた。
「……絶望すんな。これから何があってもだ一緒に外に出るぞ田口」
「うっぷ。うん……うん」
田口くんの顔は涙と鼻水、胃内容物でぐしゃぐしゃになっていた。
4日目の朝。6人が命を落とし囚人残り7人、看守7人となった。