ケンショウ学級

僕達はロールプレイを継続させられた。まだ朝の点呼をしていない。時刻は6:43本来の点呼の時間からは大幅にズレていた。

白線に並んだ僕ら、看守達もその前に並んでいる。

「いきなり少なくなっちゃったね……」

看守の吉見さんが俯きながらそう言った。誰もリアクションなどできなかった。

喪失感と虚無感に心を閉ざしてしまう人。理不尽な罰によって失った仲間を思って、涙を枯らす人。このケンショウ学級という残酷なゲームに、このゲームを操るアイツに怒りを向ける人。

それぞれがそれぞれの立場でもって、「ただ生きて帰りたい」というその一心に抱いた感情を上塗りして、どうにか立っているのだ。

「……あのさ」

そう言って春馬が手を上げて、意思表示をした。俯いていた人も自然と春馬を見ていた。

「こんなことになって皆ほんとに辛いと思う。だけど、死んだ友達をあのままにはしておきたくないよ。

せめてどこかに運んであげよう?」

賛成だ。でも誰もがすぐにはその気持ちを言葉や態度に出すことはできなかった。死体を運ぶなんて怖いに決まっている、それがもしかしたらほんの数刻先の自分自身の姿になるかもしれない。そう思う人もいるだろう。

「うん、みんなで運んであげようよ」

僕の相槌は感覚的にはかなり時間が経っていた気がする。それでも、春馬が発言をしてから十数秒も経ってはいなかったのだけれど。

「こんなん、囚人にやらせとけよ」

アキラの心無い言葉にキレた佐野くんが、アキラの胸ぐらを掴んで睨みつける。

「アキラ、お前しばらく黙っとけ」

「……オーケー、手離してよ」

誰もが最早アキラの味方ではないのだろう。でも、アキラだってこのケンショウ学級の被害者だということを僕らは忘れている。

小池っちを殺した時からアキラは変わってしまっていた、それがこうして監獄という閉鎖された空間の中でよりおぞましく、凶悪にならざるを得なかったんだろう。そうしないとアキラは心を保つことができなかったんだ。

「囚人と看守でペアになって、死体を運び出す人と懲罰房付近を掃除する係とで分けよう」

懲罰房という言葉で何人かが反応した。それもそのはずだ、僕も、今までなら遠い国の特殊な環境でしか使わないだろう単語が、今では目の前にある血溜まりの部屋として結びつく言葉になったのだから。

「笹木看守、僕は清掃をしたいです……」

「わ、私も……」

震えるその声は原田さんだった。春馬は佐野くんに目配せをした。佐野くんはその意図を読み取って頷く。

「分かったじゃあ06番と08番はオレと円山看守と一緒に清掃を、他の囚人達は佐野看守の指示に従ってみんなを運んであげてください。

頼むな、佐野」

「おう」

きっと春馬は『現場を頼む』ではなく『アキラを頼む』と言い含めたのだろう。それだけに佐野くんの反応は普段の春馬に対する反応とは違った。
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