ケンショウ学級
それからはただみんな、息を合わせたり、作業の確認をする為の必要最低限の言葉しか交わさずに黙々と、自分の仕事に励んだ。
亡くなった6人の死体は事務室にあったブルーシートに包むようにして、消毒液の匂いが充満したあの通路の奥、その右隅に寝かせてあげた。
金子くんは全身が血でまみれていたので、シャワーを使って簡単にだけど綺麗にしてあげた。固まった血が剥がれて露出した首元はタオルで巻いた。供養だったのか、見たくないものに蓋をしたのか僕らの中で答えが出る時はこなかったけどらそれをしたことに後悔はなかった。
懲罰房は出入口だけでなく、中も金子くんの血が至る所についていた。逃げ出そうとして叩いた拳が割れたり、引っ掻いた時に爪が割れたりして飛散したのだろうと用意に想像がついた。だけど、やっぱりこうして彼の痕跡をなくそうとしても、懲罰房の中に実際に入ってみても9時間もの間そこに閉じ込められた孤独感や不安は計り知ることなどできるわけがなかった。
「金子くん……怖かっただろうね」
拭き取った雑巾を絞るとピンク色の液体がバケツに溜まっていった。絞る事に中の液体は紅くなっていく。それを見ながら、原田さんが小さく呟いていた。
「あと少しだよきっと。この実験が終われば帰れ……」
僕は無意識に「帰れるよ」という言葉をせき止めていた。これではかえって不安にさせてしまうだけなのに、希望的観測に過ぎなくてもそれを言うことは咎められることでないのに。
それでも、僕はその言葉を口にすることはできなかった。原田さんはそんな僕の内側の気持ちまで理解した上で「そうだよね」と悲しそうに笑って頷いた。
全部の作業が終わったのは8時になる前だった。この監獄ではここまで時間がずれることなどないであろう朝食の時間。
元々囚人は喋りながら話すことはできなかったけれど、見回りをする看守、事務室で弁当を口にする看守も含めてただ1人として言葉を口にする人はいなかった。
綺麗になった食器を見て無意識に「こんな状況なのに腹は減って、食べられるんだな」と僕は、半ば自分に呆れた様にこぼしていた。
亡くなった6人の死体は事務室にあったブルーシートに包むようにして、消毒液の匂いが充満したあの通路の奥、その右隅に寝かせてあげた。
金子くんは全身が血でまみれていたので、シャワーを使って簡単にだけど綺麗にしてあげた。固まった血が剥がれて露出した首元はタオルで巻いた。供養だったのか、見たくないものに蓋をしたのか僕らの中で答えが出る時はこなかったけどらそれをしたことに後悔はなかった。
懲罰房は出入口だけでなく、中も金子くんの血が至る所についていた。逃げ出そうとして叩いた拳が割れたり、引っ掻いた時に爪が割れたりして飛散したのだろうと用意に想像がついた。だけど、やっぱりこうして彼の痕跡をなくそうとしても、懲罰房の中に実際に入ってみても9時間もの間そこに閉じ込められた孤独感や不安は計り知ることなどできるわけがなかった。
「金子くん……怖かっただろうね」
拭き取った雑巾を絞るとピンク色の液体がバケツに溜まっていった。絞る事に中の液体は紅くなっていく。それを見ながら、原田さんが小さく呟いていた。
「あと少しだよきっと。この実験が終われば帰れ……」
僕は無意識に「帰れるよ」という言葉をせき止めていた。これではかえって不安にさせてしまうだけなのに、希望的観測に過ぎなくてもそれを言うことは咎められることでないのに。
それでも、僕はその言葉を口にすることはできなかった。原田さんはそんな僕の内側の気持ちまで理解した上で「そうだよね」と悲しそうに笑って頷いた。
全部の作業が終わったのは8時になる前だった。この監獄ではここまで時間がずれることなどないであろう朝食の時間。
元々囚人は喋りながら話すことはできなかったけれど、見回りをする看守、事務室で弁当を口にする看守も含めてただ1人として言葉を口にする人はいなかった。
綺麗になった食器を見て無意識に「こんな状況なのに腹は減って、食べられるんだな」と僕は、半ば自分に呆れた様にこぼしていた。