ケンショウ学級
静まり返る監獄に、箸を進める音だけが虚しく響いている。それも、昨日よりも小さく。

今日の見回りは田口くんと佐野くんか。今日の行動力といい、佐野くんたちは頼りがいがあると改めて思った。僕みたいに考えが選考するタイプとは別種ではあるけども、この特殊な環境下においては行動が先行するタイプは心強い。

「ごちそうさま」

亮二は何故か僕から距離を取っているようにみえる。初めは2人で話をしたりもしたのに、今では同じ部屋に居ても会話の1つもない。食べ終えたらベッドにまっしぐらだし、休憩時間は1人で座っていることが多い。

「ふぅ、ごちそう様でした」

そう言って僕も夕食を食べ終えた。それを見て田口くんが僕らのトレイを回収にやってくる。

「06番、10番早かったね。今日はなんか疲れたよ……ゆっくり休みなさい」

そう言って回収したトレイを事務室に運んでいく。なんだろう、もっと早くに佐野くんや田口くん、それに寺井くん達と関わりを持つことができていたら結果は変わっていたのだろうか?

皆の食事が終わると監獄は静まり返る。今日は色々有りすぎた。皆だって相当に疲れているんだろうな。僕は自分の手のひらを見つめた。何も変わりはないのに、金子くんの血がまだ付いているような気がした。

もう20人もの友達を僕達は失ったんだ。関わりの多い少ないはあれど2人の教師も。こんなに“死“というものが身近にあったなんて知らなかったな。

「……!」

僕は何かを感じてハッと後ろを振り返っていた。もちろん何も無い、洗面器からポツポツと水滴が垂れているだけだ。きっと背後に迫る“死“の恐怖から、不安から追いかけられている気がしただけだったんだろう。

足枷は意外と重くって、金属が皮膚と擦れて靴擦れみたいになっている。僕は赤みのある部分をさすった。すると、無意識に涙が頬を伝って、足枷に落ちて雫が跳ねた。

「……委員長、金子くん、見根津さん、中澤さん、仁科くん、佐伯さん。どうして、君たちが死ななければならなかったんだ?どうして」

「……06番、ちょっと良いか?」

ふいに檻の外から声をかけられて、僕は振り向いた。そこにいたのは意外にも佐野くんだった。

「はい、どうしました?」

看守に対して何故だか敬語を使うのが当たり前になってしまっていた。知らず知らずの内にやはり配役になり切ってしまっているのだろう。

佐野くんは鍵を開けて「来てくれ」 と一言行って食堂の方へと歩いていった。僕もすぐに立ち上がり、後を追っていく。

「……裏切り者」

そう亮二が言ったことなど気づきもしなかった。
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