ケンショウ学級
「私もアキラくんは怖いな。あんなに優しかった人が、今朝みたいな残虐なことを平気でするなんて思いもよらなかったし……」
そう言った原田さんは恐怖で震えていた。
「問題はアキラのことを止める手立てがないってことだよね。『暴力は禁止する』っていうルールがあるから、力づくで止めようとすると委員長の二の舞だ」
金子くんを結果的に死に至らしめて、それを平然と見下していたアキラ。それを止めようとした委員長の判断は絶対に正しかった。でも、ここではルール違反として罰を受けて死んでしまった。
「そうだな、しかもそのルールのせいでアキラの行動がこの先エスカレートする可能性は低くない。最悪の場合はアキラの自由を奪う必要も出てくるかもしれないな……」
『暴力は禁止』というルールは、人道的に実験を進めていくための、抑止的な意味合いがあったことに間違いはないと思う。スタンフォード大学でもこのルールは採用していた。でも、アキラはそのルールを盾にとって卑劣な行為を正当化してしまっている。
「それにここに居ない看守の中にはアキラのやり方に同調しているヤツもいる。早めに対策を取らないとオレや田口だけじゃ抑えられなくなるかもな」
「だね……」
皆が頭を抱えていた。僕達だっていつ何が起こって罰を受けたりする危険はある。その中でも平和に過ごすことはできたはずだった。
「--閉鎖された空間の中で人はどこまでも残酷になれる」
思わず考えていたことが言葉になってしまっていた。
「こうもアイツの思い通りになっちまうもんかね。イラつくぜ。
……っと消灯時間だな。また明日もこの時間にここで落ち合おう」
佐野くんは時計を見ながらそう言った。僕達は頷いて、それぞれの独房へと帰っていく。
ベッドに横になって、消灯されてもしばらく眠ることができなかった。僕の中である疑念が頭を過ぎっていたからだ。
たぶんだけど。そうであって欲しくないのだけれど、限りなく高い確率でアイツはあの4人の中にいる。
疑心暗鬼になりながら、それでもやはりあの4人は頼りになる人物でもある。これから先どうなるのだろう、そんなことを考えながらも疲れ切っていた身体は自然と眠りについたのだった。