ケンショウ学級
今日あった様々なことのせいで、なかなか寝付けないでいた。でも、疲れは思っているよりも強くって眠りについていないのに夢を見ている様な気分になった。


……記憶と言えるほど鮮明なものでは無い。事実と言えるほど確証があることではない。でも、だからと言って夢や幻と言い捨てられるほどには混乱もない。

「……記憶の塗り替え?」

暗い部屋の真ん中で僕は誰かと話をしている。恐怖はなかった。彼も僕と同じだと知っていたからだろう。

「医学的な根拠はない。だがしかし、“それ“が起こったという事実は否定出来ない。

こと特殊な状況に置いて、人間の記憶のというのは自身の脳によって塗り替えられることがある」

低くゆっくりとした口調。僕がどれだけ混乱していても、戸惑っていても彼と話をすると、フラットな心理状態でいられる。心地良さなのだろうか。

「恐らく君にもその記憶の自身による改ざんが行われているのではないかと思う。

それは心理的な負担で身体や心が壊れてしまわないように、脳がブレーキをかけるからではないかと考えられている」

……僕の心が、僕を守るためにブレーキをかけている?

「きっとその君自身によって閉ざされた扉はいつの日か開く時がくるかもしれない。その時は君の心がこれまでに起こった事柄を受け止めることができるようになった時なんじゃないかな。

だから君は今は、“今のキミの“ままで生きていいんだ」

彼はカルテに最後に何かを書き込むと、そっと机に伏せた。その時に見えた気がしたんだ、カルテの患者名が僕の名前ではなかったように……

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