ケンショウ学級
監獄生活五日目。
「起床!!囚人はすぐに整列をしなさい」
田中くんの号令で、各独房の鍵が開けられていく。みんな顔に疲れが伺える。それは囚人だけでなく看守にも。
「おはようございます、笹木看守」
僕は春馬にそう挨拶をした。14人になってしまった朝、僕はフリースペースの冷たい感触を足で感じながら皆のことを見ていた。
「なんだまた10番が起きてないじゃないか」
アキラがそう言った瞬間だった。
「笹木看守すぐに10番を起こせ!」
佐野くんの大声がフリースペースと独房に響いた。その声で亮二は飛び起きていた。
「……おや?10番メガネはどうした?」
春馬がそう言うと亮二は布団をなでるようにして探していた。
「あれ?おかしいな。ここに置いたはずなのに……」
亮二はかなりの近眼で乱視も入っていると言っていた記憶がある。そんなやつがメガネを無くすなんてあるのだろうか?
「まぁ、良い。とにかく整列だ」
「はい……」
後にして思えばもうすでに限界だったのだろう。この監禁生活も、クラスメイトが次々に死んでいく異様な空間も、僕がアイツを捜しを優先している間に友達を傷つけていたのだということも。
「よし……」
「よし、全員揃ったなでは点呼!」
アキラが号令をかけようとした瞬間、田口くんが被せるようにして言った。アキラがそれをよく思うはずもない、恨めしそうに田口くんを睨みつけている。
恐らく看守組はアキラ達には先導させずに平穏に過ごすことを優先しているのだろう。おかげで理不尽な罰などから僕らは護られているように感じる。
けど、なんだろうこの、漠然とした空気の悪さは。溜め込まれた鬱憤がいつ爆発するのではないかと恐々とした。
どこかピリピリとした空気の中で体操をして、朝ごはんを食べた。
「なぁ勉強オタ……どうしてこんなことになったんだろうな」
突然の、とてもとても小さな声。そっと吹けば消えてしまいそうな弱々しい蝋燭のような小ささだった。
「オレさ結構頭にきたりとか、ゲームで熱中してたりとかすると簡単に「死ね」、「殺すぞ」って言葉使ってた……」
確かに僕もそうかもしれない。軽々しく言ってはいけないことなんて重々に承知している、けれどそんな言葉が口から零れるのはきっと……
「たぶんさオレの中で“死“っていうのは身近あるものではなくて、「死ね」って言ったからって一緒にゲームしてたやつが死ぬことなんかないし、「殺すぞ」なんて言ってみてもオレにはそんな度胸もない。
きっとそれは起こりはしないって、安心しているからこそ口から出てしまうものだったと思う」
そう、“死“なんてそうそう身近にあるものではない。勿論、生き物は必ず最期がくる。そう、“死“という結末は必ずくるし、皆が持っているものだ。
だけど、授業中に隣の席の子が突然死ぬことなんてそうそう起きないし、道端でタバコをポイ捨てした不良を見て「死んじゃえばいいのに」って思ったところで、その不良がすぐに交通事故にあうこともないだろう。
僕らは“死“を身近に起きながら、どこかでそれは当分先の遠い世界の事象だと思い込んでようやく生きているんだ。
「でもさ、ここではどんどん友達が死んでいく、いつ誰に殺されるかも分からない。こんなおかしな場所だからこそ、やっぱり“死“っていうのは身近に有ったんだって思い知らされた……」
亮二は体育座りをして、まるで自分で自分自身を抱きしめるかの様に身を小さくしてガタガタと震えている。
「オレはもう絶えられないよ。誰かが死ぬのも、こんな環境も。でも、自分で死ぬなんて勇気はない。
だからさ!」
そう言って急に亮二は僕の方へと身体を向けた。涙ぐむ瞳は真っ直ぐに僕を見ていた。
「もし“その時“がきたら笑って「良くやったな」って褒めてくれよ」
「起床!!囚人はすぐに整列をしなさい」
田中くんの号令で、各独房の鍵が開けられていく。みんな顔に疲れが伺える。それは囚人だけでなく看守にも。
「おはようございます、笹木看守」
僕は春馬にそう挨拶をした。14人になってしまった朝、僕はフリースペースの冷たい感触を足で感じながら皆のことを見ていた。
「なんだまた10番が起きてないじゃないか」
アキラがそう言った瞬間だった。
「笹木看守すぐに10番を起こせ!」
佐野くんの大声がフリースペースと独房に響いた。その声で亮二は飛び起きていた。
「……おや?10番メガネはどうした?」
春馬がそう言うと亮二は布団をなでるようにして探していた。
「あれ?おかしいな。ここに置いたはずなのに……」
亮二はかなりの近眼で乱視も入っていると言っていた記憶がある。そんなやつがメガネを無くすなんてあるのだろうか?
「まぁ、良い。とにかく整列だ」
「はい……」
後にして思えばもうすでに限界だったのだろう。この監禁生活も、クラスメイトが次々に死んでいく異様な空間も、僕がアイツを捜しを優先している間に友達を傷つけていたのだということも。
「よし……」
「よし、全員揃ったなでは点呼!」
アキラが号令をかけようとした瞬間、田口くんが被せるようにして言った。アキラがそれをよく思うはずもない、恨めしそうに田口くんを睨みつけている。
恐らく看守組はアキラ達には先導させずに平穏に過ごすことを優先しているのだろう。おかげで理不尽な罰などから僕らは護られているように感じる。
けど、なんだろうこの、漠然とした空気の悪さは。溜め込まれた鬱憤がいつ爆発するのではないかと恐々とした。
どこかピリピリとした空気の中で体操をして、朝ごはんを食べた。
「なぁ勉強オタ……どうしてこんなことになったんだろうな」
突然の、とてもとても小さな声。そっと吹けば消えてしまいそうな弱々しい蝋燭のような小ささだった。
「オレさ結構頭にきたりとか、ゲームで熱中してたりとかすると簡単に「死ね」、「殺すぞ」って言葉使ってた……」
確かに僕もそうかもしれない。軽々しく言ってはいけないことなんて重々に承知している、けれどそんな言葉が口から零れるのはきっと……
「たぶんさオレの中で“死“っていうのは身近あるものではなくて、「死ね」って言ったからって一緒にゲームしてたやつが死ぬことなんかないし、「殺すぞ」なんて言ってみてもオレにはそんな度胸もない。
きっとそれは起こりはしないって、安心しているからこそ口から出てしまうものだったと思う」
そう、“死“なんてそうそう身近にあるものではない。勿論、生き物は必ず最期がくる。そう、“死“という結末は必ずくるし、皆が持っているものだ。
だけど、授業中に隣の席の子が突然死ぬことなんてそうそう起きないし、道端でタバコをポイ捨てした不良を見て「死んじゃえばいいのに」って思ったところで、その不良がすぐに交通事故にあうこともないだろう。
僕らは“死“を身近に起きながら、どこかでそれは当分先の遠い世界の事象だと思い込んでようやく生きているんだ。
「でもさ、ここではどんどん友達が死んでいく、いつ誰に殺されるかも分からない。こんなおかしな場所だからこそ、やっぱり“死“っていうのは身近に有ったんだって思い知らされた……」
亮二は体育座りをして、まるで自分で自分自身を抱きしめるかの様に身を小さくしてガタガタと震えている。
「オレはもう絶えられないよ。誰かが死ぬのも、こんな環境も。でも、自分で死ぬなんて勇気はない。
だからさ!」
そう言って急に亮二は僕の方へと身体を向けた。涙ぐむ瞳は真っ直ぐに僕を見ていた。
「もし“その時“がきたら笑って「良くやったな」って褒めてくれよ」