ケンショウ学級
「亮二……お前何言って……」

笑った弾みで溜まっていた涙が一気に溢れた。亮二は涙を拭うとすぐにベッドに上がって背を向けてしまった。赤ん坊のように丸まって、小さく震えているのが下からでも分かった。

亮二の言った「その時」?っていったいいつのことだ?このゲームが終わった時ではないことは確かだった。もう限界だと、声が心が身体がそう言っていたから。

じゃあ、亮二が言う「その時」っていったい?その時に僕は「良くやったな」って言わなければならない。あれは、軽々しく言う「一生のお願い」ではない。

この環境だからこそ身近になった“死“と同じく、こんな環境だからこその本当の、真実の、嘘偽りのない“一生のお願い“だと悟ったんだ。

「僕に何が出来るって言うんだ。小池っちも、委員長も他の皆を守ることもできない僕に、何が……」

その後も佐野くんを筆頭に田口くん、春馬が率先して動くことで4日目の惨劇が嘘だったかのように平穏に時間が過ぎていった。

勉強をして、昼食を皆で食べ、また勉強をして、休憩時間には無心になって佐野くんと田口くんと春馬とキャッチボールをした。

原田さんは笑いながらそれを見ていて、他の看守は事務所に入ったままで出てくることはなかった。

そして夕食をたべた後、僕達はまた食堂に集まった。今回は田口くんが僕を迎えに来て独房から出してくれた。

亮二は何かをブツブツと言いながらまた丸くなっている。そんな背中を見て、僕は思ってはいけないことを想像しようとしていた自分にハッとした。

「どうした?大丈夫か?」

その様子に気づいた田口くんに聞かれたけれど、僕はその泥から這い出でるような汚らしい想いを飲み込む以外にはなかった。

「はい、行きましょう」

そう言った食堂へと入っていったのだった。

その隅には佐野くんと春馬と原田さんが座って待っていた。僕と田口くんもすぐに近くの椅子に座った。

「とりあえず1日無事に過ごしたな。偽善者とオレらが率先して動くことで、ある程度は看守役の暴走を止められることは分かった」

佐野くんの言葉に田口くんだけが頷いている。春馬は相変わらず落ち着いていて、冷静に言葉を返す。

「だが、アキラ達の雰囲気は依然として良くないな。今は囚人達も穏やかに過ごしてくれているから何も無いけれど、もし何か一つでもトラブルが起きたら……」

「みんなの中で溢れ出そうな感情が、一気に流れ出してしまうかもしれない……ね」

昨日の事件があった後で、ここまで平和に済んだ今日という日は奇跡にも近いものだと思う。囚人達の苛立ちや恐怖と看守達の抑止と暴走とが、ふらふらと揺れながら天秤が片方へと崩れ落ちるのを何とか保っている。そんな状態なのだと思う。

「さて、ここにいる人間は利害が一致しているだけであって仲間とは思ってねぇ。

正直に言うが、オレは『アイツ』か白仮面は原田、笹木、上杉……お前らの中の3人にいると思ってる」

佐野くんのその宣言に、場の空気が張り詰めるのが分かった。
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