ケンショウ学級
佐野くんの投げかけでみんなの目が僕に向いた。皆は信用に足る人物だと思っている。だから、ちゃんと本当の気持ちを言葉にして表さないといけないと感じた。

「僕は……」

話し始めるまでのほんの少しの間。1秒にも満たないであろうその中で僕は春馬を見て、春馬は嬉しそうに笑った気がした。

話を始めて改めて見てみたけれど春馬も真剣な表情で聞いていた。さっきの笑顔は見間違えだったのだろうか、それとも……

「佐野くんと春馬が言ったように、この実験は普通の中学生では実現できないと思う。その中でもし本当に犯人がクラスの中にいるのだとしたら……

僕は委員長とも考えていたけれど、佐野くんか原田さんもしくは……春馬だと思っている」

原田さんは目を見開いて僕を見ていた。それもそのはずだ。でもこれが嘘偽りのない僕の答えだった。

「へぇ、お前も笹木を疑ってるのか、意外だな」

佐野くんは挑発するかのような言い方だったけれど、春馬は落ち着いていた。何故そこまで落ち着いていられるのかが僕には分からない。

犯人ではないからなのか、もしくは僕が疑っていることすらも分かっていたのか。

「原田さんも怪しい理由は?」

田口くんがそう聞いてきたので、僕はできるだけ彼女を傷つけない言い方を模索しながら話すのだった。

「原田さんも成績優秀で人当たりがよく、行動力もあるし、よく皆のことを見ている。きっとクラスメイトを大切に思っているし、クラスの皆も原田さんのことはただのクラスメイトって気持ちではないと思う。

そこまで出来た人ってそうそういないよね。僕は尊敬しているし、そうではないと信じたい」

そう言い終わって僕は俯いた。そして顔をあげる頃には、原田さんは涙を袖で拭っていた。

「時間が経つのは早えな。もう消灯だ。明日もなるべくオレら3人で先導をするから、囚人達も波風立てないように他のやつらにも言っておいてくれ」

「分かった」

「うん、皆で生き残ろうね」

佐野くんを先頭に田口くん、原田さんと続いて食堂を出ていく。

続こうとした僕の肩を春馬が叩いた。そして僕を抜かして進む時に一言だけ呟いて、すぐに事務所へと入っていった。

その時の言葉を僕は後に、幾度となく反芻することとなるのだが、それはほんの少し先の希望を孕む絶望の密室の中での話になる。

そうして五日目の夜が終わる。明日はいよいよスタンフォード大学で中止を余儀なくされた、監獄実験の6日目を迎える。

僕らは無事にこの監獄生活を過ごし続けることが出来るのだろうか。それとも、スタンフォード大学の様な悲惨な状態へと、その天秤が傾いてしまうのだろうか。
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