ケンショウ学級

「大丈夫?」

原田さんが体操を止めて、すぐに倒れた亮二の元へと駆け寄った。櫻田くんは亮二の眉間から流れた血で濡れた警棒を手に、ガタガタと震えている。

「……痛い。痛いよ」

亮二は警棒で打ち付けられた眉間を押さえて、痛みにのたうち回る。原田さんは臆する様子もなく櫻田くん
に向かって言い放つ。

「櫻田看守!今のは明らかに越権行為です。すぐに手当をしてください!!」

櫻田くんは原田さんの声が聞こえていないのか、体を丸めて震えている。

おかしい。なんで……

「なんで委員長の時のように『暴力』に対する罰がないんだ!?」

僕は天井に向かって叫んでいた。空に向かって言ったのではなく勿論、それはアイツに向けてのメッセージだった。

「くかかかっ、さっき櫻田も言っただろう?これは『教育』だ。ただ単に暴力を奮ったバカなやつと一緒にするな。

越権行為?貴様ら囚人共を監視し教育するのは、オレら看守役に与えられた責務であり、教育の為にやむなく体罰を与えた。それだけのことだ」

キッと睨みつける原田さん。アキラはそれでも高みから、見下すように続ける。

「現に見てみろ。確かに警棒で体を打ちつければ暴力と言えるだろう。だが、教育的指導であったと第三者であるアイツが認めているからこそ、櫻田はこうして罰を受けずに生きている。

それが、この教室での……いや、この監獄でのルールなんだよ」

最悪だ。これで僕達囚人を守っていた『暴力を振るってはいけない』というルールが根底から覆されしまった。

アキラはきっとこんな機会をいつからか狙っていたんだ。それも他人の命をリスクにかけて。本当に最悪だ。

これで看守達は『教育』という名の元に、暴力が正当化されることを知った。そして、囚人が看守に対して暴力を振るう正当な理由など1つもない。なぜなら委員長がアキラに対して死を咎めるという、恐らく現実でもこんな環境でも等しく、ある種絶対的な正義をもって行った暴力ですらアイツは認めなかったのだから。

事実上これでルールは改変された。『看守に対する暴力は禁止、看守は体罰における教育は禁止されない』という最悪なルールが今ここで、証明されてしまっているのだから。

「それに07番、お前なに看守に許可もなく10番に手を貸してるんだ?」

原田さんはアキラの言葉に耳もかさずに亮二の手当をしている。囚人服の一部を破り、包帯替わりに亮二の頭を巻いていく。巻いた所からすぐに血が滲み出していた。

「……くははっ。堂々と看守様の言葉を無視して手当をしているのか。豪胆だな07番。

しかし、破り捨ててしまうとは貴様にとって囚人服は要らないのかな?なぁ、それ以上10番の手当を続けたいなら衣服を全て脱げ」

「最低ねアンタ……」

原田さんは一旦手を止めて立ち上がり、アキラを睨みつける。そして、ワンピースの裾を掴み囚人服を脱ぎ始める。
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