ケンショウ学級
僕は原田さんの手を掴み、ワンピースを脱ごうとする手を止めた。
「なにしてくれてんだ06番」
「お前がやっていることは教育でも指導でもなんでもない。ただの……」
アキラは僕の胸ぐらを掴んで引き上げる。アキラの血走った目が眼前にまで近づけられていた。
「低俗なイジメだ」
僕はその目を真っ直ぐに見返していた。自分でも驚くくらいに冷静だった。対してアキラは穏やかではない、わなわなと拳が怒りで震えている。
「低俗なイジメだと?これは高尚な教育だ!社会不適合者の囚人共に、ここでの生活の仕方を丁寧に指導しているんだよ。その挑発的な目、気に入らない貴様にも教育が必要なようだな」
アキラは僕の胸ぐらを掴みあげたままに、自分の警棒に手をかけた。精神が狂って身体のタカが外れてしまったのか片腕でも解くことが出来ない。
「まって堀井くん。まだ動いたら……!」
亮二が原田さんの静止を振り切って飛び跳ねるように身体を起こした。そして右のポケットに手を入れた。
アキラが警棒を引き抜き、振り上げる様子をスローモーションで見ていた僕は亮二の言葉を聞きながらも、止めてあげることができなかった。
「……!?やめろ亮二」
僕はゆっくり進む時間軸の中で、亮二がポケットから出すそれをはっきりと視認していた。電灯の光を反射させたそれは、鋭利に尖り握りこむ亮二手の平をすでに傷つけていた。
「さぁ06番!教育だぁあっ!!」
笑顔で警棒を振り落とすアキラ。なんて顔をしているんだ。なんで、こんな状況で笑顔で人を殴ろうとしているんだ。いったいいつからこんなことになってしまったというんだアキラ。
「えっ……?」
「かっ、かひゃ……」
僕の顔にまるでシャワーでイタズラをされているかの様に生暖かい液体がかけられた。ここにはシャワーはない。なんの液体だこれは?
「いはい、なにを、ひゅ……堀井ぃひぃ!!」
もう一度、その液体がどこからか吹き出して僕のことを染め上げていく。アキラの手は離れていた。
なんだこれ?真っ赤だ。
なんだこれ?鉄みたいなサビみたいな匂いだ。
なんだこれ?なんでアキラは青ざめながら首を押さえているんだ?アキラお前も真っ赤だぞ?
「誰が堀井くんを止めてぇえ!!」
原田さんの叫び声に、はっと正気を取り戻した時にはもう遅かった。
「やめろ、やめろ、すまなかった。オレはアキラに命令されただけなんだ!許してくれよ堀井くん」
櫻田くんが独房の一室にまで身を退いて震えていた。もうアキラは床に伏して動かなくなっている。真っ赤な生暖かな液体に浸かりながら。
「死ねよ悪魔……」
悪魔と呼ばれた櫻田くんは、恐怖で青ざめて小さく震えていた。弱々しく、生気などない表情でたど必死に、今まさに自分の喉元を切り裂こうとするクラスメイトに命乞いをしているだけだった。
亮二が右手を振りかざした時、僕は亮二の腕を掴もうとした。しかし、その手はアキラの血でべっとりとしていた僕の手から簡単に溢れ出た。
「いやだぁあぁぁぁあっ!」
亮二はなんの躊躇いもなくその鋭利な物で櫻田くんの首を深く横一線に切り裂いた。
「あ、かはっ……しにゅ?おれ、ひゅ、ひゅ、嫌あ……あ」
櫻田くんは膝が折れて、まえのめりに倒れ込んだ。全開にした蛇口の水のように、太い動脈から血液が漏れだしていく。
「はぁ、はぁ、はあ。
ふぅ」
亮二は満足そうに笑っていた。手から落ちた鋭利な何かが床で弾けて割れた。それは無くなったと思っていた亮二の眼鏡の破片だった。
亮二はその満足そうな顔で僕のことを見つめながら、あの約束の言葉を待ちわびながら『看守に対して暴力を奮った罰』を受けて死んでいったのだった。
「なにしてくれてんだ06番」
「お前がやっていることは教育でも指導でもなんでもない。ただの……」
アキラは僕の胸ぐらを掴んで引き上げる。アキラの血走った目が眼前にまで近づけられていた。
「低俗なイジメだ」
僕はその目を真っ直ぐに見返していた。自分でも驚くくらいに冷静だった。対してアキラは穏やかではない、わなわなと拳が怒りで震えている。
「低俗なイジメだと?これは高尚な教育だ!社会不適合者の囚人共に、ここでの生活の仕方を丁寧に指導しているんだよ。その挑発的な目、気に入らない貴様にも教育が必要なようだな」
アキラは僕の胸ぐらを掴みあげたままに、自分の警棒に手をかけた。精神が狂って身体のタカが外れてしまったのか片腕でも解くことが出来ない。
「まって堀井くん。まだ動いたら……!」
亮二が原田さんの静止を振り切って飛び跳ねるように身体を起こした。そして右のポケットに手を入れた。
アキラが警棒を引き抜き、振り上げる様子をスローモーションで見ていた僕は亮二の言葉を聞きながらも、止めてあげることができなかった。
「……!?やめろ亮二」
僕はゆっくり進む時間軸の中で、亮二がポケットから出すそれをはっきりと視認していた。電灯の光を反射させたそれは、鋭利に尖り握りこむ亮二手の平をすでに傷つけていた。
「さぁ06番!教育だぁあっ!!」
笑顔で警棒を振り落とすアキラ。なんて顔をしているんだ。なんで、こんな状況で笑顔で人を殴ろうとしているんだ。いったいいつからこんなことになってしまったというんだアキラ。
「えっ……?」
「かっ、かひゃ……」
僕の顔にまるでシャワーでイタズラをされているかの様に生暖かい液体がかけられた。ここにはシャワーはない。なんの液体だこれは?
「いはい、なにを、ひゅ……堀井ぃひぃ!!」
もう一度、その液体がどこからか吹き出して僕のことを染め上げていく。アキラの手は離れていた。
なんだこれ?真っ赤だ。
なんだこれ?鉄みたいなサビみたいな匂いだ。
なんだこれ?なんでアキラは青ざめながら首を押さえているんだ?アキラお前も真っ赤だぞ?
「誰が堀井くんを止めてぇえ!!」
原田さんの叫び声に、はっと正気を取り戻した時にはもう遅かった。
「やめろ、やめろ、すまなかった。オレはアキラに命令されただけなんだ!許してくれよ堀井くん」
櫻田くんが独房の一室にまで身を退いて震えていた。もうアキラは床に伏して動かなくなっている。真っ赤な生暖かな液体に浸かりながら。
「死ねよ悪魔……」
悪魔と呼ばれた櫻田くんは、恐怖で青ざめて小さく震えていた。弱々しく、生気などない表情でたど必死に、今まさに自分の喉元を切り裂こうとするクラスメイトに命乞いをしているだけだった。
亮二が右手を振りかざした時、僕は亮二の腕を掴もうとした。しかし、その手はアキラの血でべっとりとしていた僕の手から簡単に溢れ出た。
「いやだぁあぁぁぁあっ!」
亮二はなんの躊躇いもなくその鋭利な物で櫻田くんの首を深く横一線に切り裂いた。
「あ、かはっ……しにゅ?おれ、ひゅ、ひゅ、嫌あ……あ」
櫻田くんは膝が折れて、まえのめりに倒れ込んだ。全開にした蛇口の水のように、太い動脈から血液が漏れだしていく。
「はぁ、はぁ、はあ。
ふぅ」
亮二は満足そうに笑っていた。手から落ちた鋭利な何かが床で弾けて割れた。それは無くなったと思っていた亮二の眼鏡の破片だった。
亮二はその満足そうな顔で僕のことを見つめながら、あの約束の言葉を待ちわびながら『看守に対して暴力を奮った罰』を受けて死んでいったのだった。